【修了式】ラストスパートは華やかに｜リアクション

【修了式】ラストスパートは華やかに

陸上部
　部室のドアは開けっ放しになっていた。中のベンチには制服姿の青物といきが座っていた。片足を立てて膝の上に力なく手を置く。気だるげでどこか表情は冴えない。
　――あーあ、最後のホームルームだったのに。
　胸中の不満を抑えられず、願望として口から零れ落ちた。
「といきと浅井先生は結婚します！　なんて発表は無かったにゃー」
　声にして少しすっきりしたのか。壁に背を預けて弱々しく笑った。
　部室は静かだった。年季の入ったロッカーを眺める。可愛らしいシールが貼ってあった。安っぽいテーブルにはタオルが無造作に置いてある。誰かの忘れ物のようだった。
　憂いを秘めた青い瞳は開いたドアに流れ着く。信じられないという風に瞬きが強くなる。
　――え、なんで？　どうして浅井先生が！？
　浅井幸太は慌てた顔で走ってくる。心なしか顔が赤い。
「青物、下、下だ！」
「下って？」
　といきは壁から背を離した。股間の辺りに立てていた足が横にずれる。引っ張られるようにしてスカートが僅かに上がった。
「スカートの中が！」
　幸太は部室に突進した。
「ちょ、危ないって。速度を」

　言葉よりも先に身体が反応した。黄色い闘牛と化した幸太をひらりとスカートを翻して手で押し流す。
「すまない。青物、スカートの中は」
「もー先生、スカートの下はスパッツなの！」
「え、そうなのか？」
　幸太は後ろを振り返ろうとして手で止められた。
「まだこっち見ちゃダメ！」
　スパッツを穿いていても丸見えは恥ずかしい。といきは捲れ上がったスカートを急いで下ろした。
「先生、こっち向いていいよ」
「ケガはなかったか」
「それは、大丈夫」
「スパッツとは思わなかった。青物はいつも穿いているのか？」
　といきは両足を揃えてベンチに座った。
「陸上部員の証だし、顧問の先生といつも一緒にいる感じがするから」
「陸上部の顧問でもあるが、俺は青物の担任だ」
　幸太は立ち上がってといきの横に座った。
「先生は担任だけど、一年で終わっちゃうかもしれないし」
「青物、やっぱりどこか痛めていたのか！？」
「なんで？　私、どこも痛めて……」
　といきの手の甲に雫が落ちてきた。驚いた表情で頬に手をやる。
「私、泣いてるの？」
「手首か、それとも足首を捻ったのか。俺に見せてみろ」
　といきは倒れ込んだ。幸太の胸に顔を押し付ける。
「え、これは。おい、青物？」
「私……来年も、再来年も、ずっと浅井先生の側にいたいよ……」
　その痛切な想いに幸太の両手が戸惑う。といきの背中に回そうとして踏み止まり、両肩をしっかりと握った。
「来年も、再来年も、俺は陸上部の顧問だ。ずっといられるかは、俺にもわからない」
　といきは顔を押し付けたままだった。幸太は無理に引き離すことはしなかった。開いた部室のドアに苦笑して、二人だけの時間を過ごした。