【修了式】ラストスパートは華やかに｜リアクション

【修了式】ラストスパートは華やかに

学食（カフェテリア）
　ホームルームと大掃除を済ませた巫部紫苑が学食に訪れた。メニューの一覧に目を向けたまま、考え込むような表情を見せる。
　――学食のメニューは全て制覇しました。どれも美味しく頂いたので悩みます。何を注文しましょうか。
　名案が浮かんだという風に手を合わせる。
「全てのメニューを食べましょう」
　その一言で調理場は戦場となった。指示する声が飛び、香ばしい匂いに包まれた。完成した一品は紫苑の手で次々とテーブルに運ばれた。ウエイトレスのような状況に周囲の者も自発的に手伝う。
「ありがとうございます」
　のんびりとした声で礼を言いつつ、全ての料理を運び終えた。
　紫苑は椅子に座る。目の前には料理が犇めき合う。手の届かないところにまで置かれていた。
　動じた様子は皆無。微笑んだ紫苑は手を合わせて、いただきます、と静かに口にした。
　周囲にいた人々は漏れなく立ち止まり、その推移を見守る。
　最初は麺類であった。艶やかな唇にツルツルと麺が吸い込まれていく。汁は全て飲み干した。空になった器が塔のように重ねられていく。
　次の標的は丼物であった。具と米飯を配分よく口に運ぶ。次々に平らげた。一粒も残さない。
　周囲は呆然とした表情で拍手を送る。紫苑は箸を動かしながら柔らかい笑みを返した。
　全ての定食を胃に収めた。空になった飲み物のグラスがボウリングのピンのように並べられた。
「もう、デザートですか」
　名残惜しいという声に周囲はどよめいた。
　紫苑は箸をフォークやスプーンに持ち替えて黙々と食べる。
　最後の一口に全員の目が注がれた。そっと口に入れてスプーンを置いた。
「ごちそうさまでした」
　始まりと同じく手を合わせて微笑んだ。
「すげー」
「どうなってんだ？」
「マジか！？」
　驚愕と拍手が混ざり合う。
　その中、紫苑は空になった器を運ぶ。
「今日も美味しい料理をありがとうございました」
　目に留まった調理師に満足げな笑みを向けた。
「こちらこそ、いつもありがとよ」
　白い歯を見せて笑う相手に一礼して紫苑は食堂を出た。直後に立ち止まって後ろを振り返る。
　――長かったようでいて、あっという間の一年でしたね。
　二年生になっても美味しいものをたくさん食べて楽しく過ごしたいですね♪
　身体が火照っているのか。思い切り、息を吸い込んだ。胸元の辺りでブチッという音が鳴った。視線を下に向けると幾つかボタンが落ちていた。
　自身の胸を見ると制服とシャツを押し退けてブラジャーが迫り出していた。

「あらあら、これで何度目でしょうか」
　目にした男子が驚いた表情で固まった。紫苑と目が合うと頻りに顔を振って真っ赤な顔で逃げ出した。
　同性の女子からも驚きの表情を向けられた。
「私も帰りましょう」
　学生鞄を手に提げてゆっくりと歩き出す。
　――そろそろ新しい服に替えた方がいいみたいですね。
　それとも今日は少し食べ過ぎたのでしょうか。
　通り掛かった人々の驚きを余所に、ふふふ、と笑いながら機嫌よく下校の途に就いた。