おひとりグルメさんぽ｜リアクション

おひとりグルメさんぽ

■トンカツを宣伝する豚さんキャラってアリだと思う
「はふー、今日も沢山買ったのです」
　整列する店員に頭を下げられつつ、満足げに書店の自動ドアをくぐる椿美咲紀。
　買ったという割にハンドバッグしか持っていないぞと思うやもしれないが、持ち運ぶのを最初から諦める量の本を買った次第の今である。
　書店から直で宅急便を飛ばせるというシステムを、利用する人もまあ少なかろうて。
「本土のお店はやっぱり品揃えが良いのです。古書も沢山あったりしますし……」
　うっとりとした気分で帰路につく。
　このまままっすぐお家に帰って後から届くであろう本を心待ちにするのもよい。よいが……。
「うう、なんだかお腹がすいてきたのです」
　誰にともなく呟く美咲紀。
　夢中になって本を選んでいたせいか、疲労と空腹を忘れていたようだ。
　どこかに座ってご飯を食べたい。
　できればガッツリいっておきたい。
　尚且つ疲れのとれる味噌味の……。
「ハッ！？」
　考えながら歩いていると、見覚えのある豚さんが声をかけてきた。
　否、美咲紀の脳内にしか聞こえない声でなにやら語りかけてきたのだ。
「その声は――じゃなくてそのマスコットは！」
　振り向けば豚がいる。
「名古屋に本店がある某みそかつのお店！　名古屋市内に十店舗展開し行列必至の名店！　関東関西そして九州にも展開していると聞きましたがここにもありましたか！」
　すっごい説明口調なのは、美咲紀からの親切心である。
　誰への親切かは、美咲紀自身にもちょっとわからない。
　たぶん読者だと思う。
「と言うことは、よく名古屋で食べたヒレトンカツ定食もあるはず」
　お腹に手を当てて、むきゅうと腹の声を聞く。
　心のＧＯサインに加え、お腹もＧＯと言っているように思えた。
　心と体がひとつとなるとき、人は既に行動を決定しているのだ。
　――と、小難しく言ったが要するに店を見つけて即入店したのだ。

　店内をただよう味噌ベースの香り。
　もうこれだけでご飯がいけるのだが、まだその時ではない。
　美咲紀はうきうきした気持ちでテーブルについた。
　店舗から懐かしさと新鮮さの両方を感じつつも、かつてよく食べたヒレトンカツ定食を選ぶ。
　食べ物が、心のポストイットであるかのような。
　かつての気持ちがよみがえるのだ。

　さあ、短くも長い時間を経てヒレトンカツ定食がやってくる。
　こんもりと山をつくった千切りキャベツとじゅうじゅういってるカツ。
　そこに、みそだれをたっぷりとかけていく。目の前でだ。
　カツが喜んでいる。
　と、思えるほどのマッチ。そして心の沸き立ち。
　美咲紀は早速ひときれのカツを箸でつまみ上げ、口に運んだ。
　ざくりという食感と直後にやってくる味噌ソースの香りと味。
　手元に白米があるという、幸せ。
　もはや永遠とも思える短いひとときを、美咲紀はカツとご飯と千切りキャベツのトライアングルで過ごした。
　……その後、ヒレカツサンドをお土産に買っていったのは言うまでもなかろうて。