【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ｜リアクション

【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ

「魔女さん倒された時に竜さん怒らなかったのは、事態解決したと思ったからじゃないかなぁ。きっと皆の事を信じていたんだよ」
　だから、もう一度、話し合う事はできないかな、と願えば義勇軍の人々はたじろぐ。
　そこで活躍したのは２人だけではない。アルレッテ・ザメニスに相談し自ら説得に動き出した星守の女性達である。彼女達は義勇軍の中に知人やら息子やら恋人やらを見つけ、真摯に向き合う。そのお陰もあり彼らは改めて考える事を選ぶ。
　アルレッテ自身も義勇軍のメンバーの怪我を治療し、話を聞いていた。その上で静かに諭せば、矛を収めようと考える物も現れる。
（ちょっとは貢献できたかな？）
　日和は周囲の様子をみて少しだけ安堵する。傍らの瑠樹がぬいぐるみを抱きしめながら訴える姿も胸を打ったようで、義勇軍の中から「もう一度話し合ったほうがいいのでは？」という意見が出てくるようになった。

（和んでる場合や無いんやけどな。向こうさん、どうやら魔女の死を知らんようやし）
　その様子にため息をついたラプターは、魔女が死んだ事を語るためにそこにいた。だが、彼の目の前には桜庭円、椿美咲紀、リリエル・エーテライトの３人が立ちはだかっていた。彼女達は先に説得を試みた常闇月と来島アカリから事情を聴いた上で再度説得に当たる事にしたのだ。
（言葉は効果はあるけどそこまで届かない気がする。理屈じゃない気がするんだよねぇ）
　考える円の傍ら、美咲紀が一歩踏み出しラプターに語りかけた。本当は食事をしながらゆっくりと語りたかったのだが準備が出来たのはシートと軽食だけだった。
「立ち話もなんですし、一緒にどうですか？」
「悪いな、嬢ちゃん。ほんならお茶だけもらおか」
　美咲紀の呼びかけに、ラプターは頷きシートの上に座る。そしてお茶を飲み、静かに３人の言葉を待った。
「昨日きた冒険者さんのお仲間やろ？　こうして話そうとするっちゅうことは大方説得にきたんとちゃうか？」
「そんな所です」
　リリエルの言葉に、ラプターは「やはりな」と小さく呟く。美咲紀はあくまで穏やかな心でラプターと向き合おうと、そっとラプターの心にある蟠りについて聞いたのだ。
「……これでも考えたんよ。あの魔女許せないかって。せやけどな。あの男ん時みたく多くの人が傷つき、死者も出ている。それが単純にやっぱり許せへんのよ」
「でも、周辺の人達を巻き込み争いを拡大させる事が皆の幸福に繋がるのか、と思うのです。先代への憎しみ・不信感をそのままフローレンスさんにぶつけてしまったために『こうとしか生きられない』『皆が望むように生きてやる』と魔女が生まれたのですよ？」
　本当に武力行使だけが解決策なのか、と美咲紀が問いかけると、ラプターは僅かに左目を黒く変色させながら、眉間にしわを寄せる。
「それは知っとう。けれど、そうでもしないと晴れない感情も、あるんやないか？」
「それって自分の為にやってる事だよね」
　その時。今まで黙っていた円がぽつり、と言い捨てた。彼女はため息を１つ吐くとラプターに対し指をくいっ、と動かして挑発した。そして、懐から一本の矢を取り出す。
「本当はみんなの前でこの矢の事を話したかったんだけどね」
「ならば言えばええ。これで魔女を殺せなかった事、暴露するんやろ。どうせ『殺せたはずなのにできなかった』とでも言うて」
　図星だったのか、円の表情が僅かに曇る。ラプターは美咲紀にお茶の礼を述べると顎で向こうに行くようにしかけた。
「そっちのお嬢ちゃんは僕と一戦やりたいんか？　ええよ？」
（はわわっ？！　なんだか雲行きが怪しくなりました……）
　リリエルは嫌な予感がしてならなかった。だから、咄嗟にラプターの腕を取った。
「フローレンスさんは確かに悪い事をしたのかもしれません、理由があってもその事実が消せないのは私もわかります。それでも、殺すのは間違っています！」
　リリエルの言葉に、ラプターは僅かに足を止める。
「虐めてやり返されてまたやり返して、なんて……そんなの、悲しいじゃないですか！　すぐに許してとは言いません、せめて罪を償うために働かせてあげてください！」
「罪は、命でしか償えない。そういう考え方もあるんやで」
　必死に説得しようとするリリエルに、ラプターは諭すように言う。そして勤めて優しく払うと、円の目を見た。
「ほな、いこか」
「うん」
　円は不敵に笑って頷いた。