【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ｜リアクション

【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ

結：取り合う手

「なんだ……？」
　ゲース・アイルンアルムと星守の青年がプロレスで勝負をしていると、ラプターが桜庭円を伴って現れた。
「ゲースはん、その勝負……僕とこのお嬢ちゃんに譲ってくれ」
「はぁ？！　いきなり何言い出すんだ」
　ゲースたちが困惑しているのを尻目にラプターは円と向き直った。円は矢を取り出し、ラプターが魔女を殺せたはずなのに殺さなかった、と宣言した。ラプターは黙って周囲を見る。だが、義勇軍の人々は戸惑いを見せるばかりだった。
「僕が邪魔なら、その矢で殺してみるかい？」
「後悔してもしらんぞ。この毒は不死鳥草がないと解除できへんからな」
　円が魔水の光を使い氷の盾を生み出す。ラプターはそんな彼女になぜか悲しげな眼差しを向けていた。

　ラプターと円が戦い始める少し前。鎌八まもるが会場にやってきており義勇軍の人々の前で署名の旗を数枚見せていた。彼は旗にある名前をみてみなよ、とその中の一枚を広げる。
「あんたの母ちゃんの名前はないかい？　隣の元気な奥さんの孫の名は？　ほら、ポニテのかわいいあのコの名もある」
　まもるがそんな事を言えば「なんで知ってるんだ！」と義勇軍の中から声があがる。まもるはちらり、と日和と瑠樹に目をむけウインク１つ。
「みんな、ここが戦場になることは望んでないんだ。大丈夫、オレは墓地にもチラシを置いてきた。あの世からの署名だってあるかもな？」
　そこまで茶目っ気たっぷりに言ったまもるは、すっ、と目を細める。そして、はっきりとこういった。

　――ちゃんと眼をあけろ。考えることを怠けるな。

　その一言に、多くの義勇軍メンバーが息を飲んだ。

　ラプターの放つ矢を、円は的確に氷の盾で防いでいた。自ら危険な行動に出るほど彼女のろっこん『ブレイブ・ハート』は効果を強めていく。そのおかげか、彼女には傷１つない。それでもラプターは焦る様子も無く戦っていた。
（そろそろ頃合かな）
　熱くなる様子も無いラプターに、円は内心戸惑った。だが、ここで動かなければ状況は打破できない。彼女はラプターの武器に注目して射線を予測し、わざと腕で矢を受けようとした。その時だった。
「やめぇ、わざとらしい」
　ラプターの声に、円が足を止める。矢はそれでも僅かにかすめ、腕が熱くなる。痛みを堪えながら氷の鏡を作った円は、静かに彼へとそれを向けた。
「君も、この世界を汚している事を自覚したほうがいい。恋人の為に動いている？　笑わせないでよ、君は自分の為に動いているじゃないか。そして、自分自身を許してない事も解るよ」
　円の言葉に、ラプターは静かに頷く。そして、２人は同時に口を開いた。
「「何時まで、他人に咎を求め甘えるつもりなの？」なん？」
　円が息を飲む。ラプターは尚も静かに口を開いた。
「悪いな。そういう事はぎょうさん聞きなれとるさかい。予測できるんや。それに、解ってるんよ。僕がここを汚しているのも。自分の為にやってんのも。せやから、今日、僕は死ぬ」
　その言葉に、円は戸惑う。はらはらと試合を見守っていた人々も、説得に当たっていたまもるたちも、その言葉を聴いて集まってくる。
「ど、どういう事ですか？！」
　リリエルが戸惑い気味に問いかけると、ラプターは静かに言った。
「……お嬢ちゃんたちには悪いが魔女はもう死んどるで。昨夜、仲間と共に毒殺した。その事を伝えるために、僕はここに来た。そして……僕もここで死ぬ」
「え……っ？！」
　その言葉に、リリエル・エーテライトだけではなく多くの人々がさらに困惑した。なぜならば、そこに『魔女』とよばれていた女性、フローレンス・アイメルトその人が姿を現したからだ。

　その姿を見たラプターは、困惑を隠せなかった。だが、フローレンスは静かに歩み寄る。
「やはり、私の命でしか、償えないのでしょうか？」
　フローレンスは顔をあげると、その体をラプターの前に晒した。
「ならば、望みどおりに……」
「だめです、フローレンスさんっ！」
　リリエルはフローレンスとラプターの間に入り、魔風の力を全力で巻き起こした。
「彼女を殺したら今度はラプターさんが誰かに恨まれます。そしてその誰かがラプターさんを殺そうとするかもしれない、私はそういうのがいやなんです！　ですから……」
　リリエルが震えながらもフローレンスを庇おうとする。ラプターはその姿を見、ぐっ、と歯を食いしばった。