【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ｜リアクション

【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ

　＊　＊　＊

　――隠し階層。

　死んだと思われていたフローレンスは、既に目覚めていた。彼女に与えられた薬は毒薬ではなく、呪術の光による強い睡眠薬だったのである。
「彼の提案には、驚かされました。でも、……出し抜くにはコレぐらい必要なのかもしれませんね」
　フローレンスは小さく呟く。その傍らにはサキリ・デイジーカッターがいた。
　彼女の目の前には、別の階層を担当するアステリズムたちがそろっていた。彼らは、サキリを初めとする冒険者達から事情を聞き、フローレンスを認める書類を作ってくれたのだ。
「色々あって連絡がつかなかったアステリズムもいるけど、ボクらは君を信用し、信頼しているよ」
　第二階層担当、うお座のアステリズムであるアヴィケンナ・マラータがそういって署名をする。背後では既にサインをした数人のアステリズムたちが控えている。
　彼らに見守られ書類を受け取ったサキリは一礼し、落ち着いたらフローレンスを迎えに行く、と言って隠し階層を立ち去る。彼は第六階層に戻ると小さく笑った。
「新田。君のアイデアには脱帽したよ」
　サキリはそういうと書類を掲げ、人々へこう言い放った。
「ここに、他の階層のアステリズムたちからもらった署名がある。彼らは、フローレンスを認めてくれたよ。彼女が犯した罪を知り、それを反省し償う意志を知った上でね。それでも、君たちは彼女を断罪するつもりなのか？」
　サキリの言葉に、義勇軍の人々はお互い顔を見合わせる。そして、ラプターもまたうつむき、矢を下ろした。

「おいおい、これはどういうことさね？」
　様子を見ていた骨削瓢が愕然となり思わず立ち上がる。そんな彼に立ちはだかったのは、ローブ姿の少年。彼は徐にそれを剥ぐと……不敵に笑った。
「新田はん……」
　瓢の言葉に、新田亮は静かに頷いた。そして、事のあらましを簡単に語ったのだった。

　＊　＊　＊

　――作戦決行前。

　第六階層に集まった冒険者と星守の幹部達、フローレンス・アイメルトを前に、新田亮は静かに言った。
「フローレンスさんには悪いが、貴方の死を偽装しようと思う」
　その言葉に、仲間たちは表情を引き締める。サキリ・デイジーカッターは、緊張するフローレンスへと赤い瞳を向けた。
「汚名を返上しアステリズムとして階層を守る覚悟はあるかい？　この作戦でもしかしたら危険な目にあうかもしれないし、これを乗り越えたとしても失った信用を取り戻すのは難しいんだよ？」
　フローレンスは、真剣な眼差しで１つ、コクリと頷く。
「私は、決めました。沢山の人に迷惑をかけ不幸にした分返ってくる事も覚悟の上です」
「本気みたいだね」
　サキリの言葉に、その場にいた全員が頷く。サキリは笑顔でフローレンスへと手を差し伸べた。

　――その覚悟があるならば、僕と仲間達はあなたに協力する。

　フローレンスに、冒険者達は笑顔を見せて誓う。この騒動を治める、と。フローレンスは胸に熱い物を覚えながら、声を震わせて願う。
「第六階層担当、やぎ座のアステリズムとして皆さんに依頼します。どうか、この階層で起ころうとしている戦争を止めてください。お願いします」
　フローレンスの頬を伝う涙を拭い、亮とサキリは頷く。とことことやって来た曖浜瑠樹は彼女の手を取り、やさしい笑顔を零す。
「受けたよぉ。おれも皆も、ぜんりょくでがんばるっ！」

　――こうして、冒険者達は作戦を開始したのである。

　冒険者達は一見関連が無いように分かれて行動し、妨害者の霍乱を狙った。亮は自らスパイとして義勇軍に入り込み、それとなくラプター達に近づいた。そうして、和解のテーブルに着かせるべく誘導したのである。