【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ｜リアクション

【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ

幕間：その時、影は動いた

　――その夜。

　この町で小火騒ぎがあった。しかも、義勇軍を支持する、という人々の家がほとんどである。だが、一箇所だけ星守支持の家へと火が燃え移っていた。
「厄介な事してくれるじゃない」
　戦争が起こらないよう裏工作に当たるべく情報を集めていた椎井莉鳥は周囲に家事を知らせると、近くにあったバケツの水で火を消しはじめた。彼女の声に反応し家々から沢山の人が来たお陰であっという間に火事は消される。
　その際、支持が違う家同士が助け合う姿を見、少しほっ、とする莉鳥。だがその時、不振な影を見た。彼女は後片付けをその場に居た人々に頼み、こっそり後をつける。と、その先で見たものは、魔物が火をつけようとする様子だった。
「！　さけないわ」
「見ツカッタ！」
　魔物は油のような物を撒き、火をつけて逃げ出す。燃え上がる炎に足止めを喰らってしまった莉鳥だったが、騒動に気づいた住人が彼女を庇い、どこからともなく水を発生させた。魔水の光をつかったようだ。
「怪我は無いか、お嬢さん」
「えぇ。ありがとう。でも、付け火の犯人を取り逃がしてしまったわ」
　助けてもらった礼を述べつつも莉鳥は自分が見たことを語り失態を謝る。
（あの声、どこかで聞いた覚えがある気がするわね）
　莉鳥は仲間の冒険者に話をしておこう、と思った。

　　一方、とある家。
　ベッドに横たわるフローレンス・アイメルトを前に、ラプターを初めとする義勇軍のメンバーはちらり、と小柄な少年を見た。ラプターは１つ頷き、少年は小瓶に入った薬を、ゆっくりとフローレンスへと飲ませる。
「何を飲ませた！」
　取り押さえられた優木遥斗が少年へ問う。だが、少年は何も答えず、フローレンスの脈を見、頷く。そして、フローレンスは、呼吸を止めた。
「フローレンスさん！」
　漸く束縛を解かれ、駆け寄る遥斗。だが、フローレンスは反応しない。少年を睨みつける遥斗。
「これで、ええんや」
ラプターは愕然となる遥斗を慰めるように肩を叩く。
「お前さんが悪かったわけやない。魔女が因果応報喰らっただけや」
　その言葉に、遥斗は膝をつく。あとから駆けつけた星守の人々も、この騒動に息を飲んだ。

（順調に事が運んだ）
　少年は、目深にかぶったフードの奥で目を細める。
（後は……あいつが余計な事をしないように探し出すだけだ）
　そっと拳を握り締める。そしてラプターたちと共に部屋を後にする際、遥斗と目が合った。
　一見するとにらみ合っているようにみえる２人。だが、僅かに頷きあったのを見ていたのは、僅かな者たちだけだった。