【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ｜リアクション

【星幽塔】第六階層　祈り星と雲海を懸けるタランテラ

「じゃあ、何かい？　最初からあっしは……、義勇軍は掌で踊らされていたってわけかいっ？！」
　瓢の言葉に、亮は苦笑しながらも……語気を強める。
「ま、そういう事になるのかな？　お前はやりすぎたんだ」
　瓢はその言葉を鼻で笑う。亮が怪訝そうな顔になるのを尻目に、彼はぴゅいっ、ぴゅいっ、と何度か指笛を鳴らす。と……、物陰から３、４人ほどの男達がラプターたちへと襲い掛かってきたのである。
（和解なんてさせないよぃ！　さよなら、ラプターはん！）
　瓢は念には念を入れていた。まかり間違って和解しようならば、とラプターの始末も視野に入れていたのである。だが……！
「させないっ！」
「ラプターさんっ！！」
　リリエルと白い影がラプターを庇い、白い羽が舞い散ってそのローブが切り裂かれる。滴り落ちる紅に周囲から悲鳴が上がる。月が押さえ込み、利鳥が目潰しした敵をサキリが倒す。遥斗が魔風の力でけん制し、ゲースが拳を振るう事で刺客は倒され、捕縛される。瓢は亮によって押し出され、同じように転がされた。
「大丈夫か！　今助ける！！」
　アルレッテがすぐに駆け寄り、杖を振るう。月光を思わせる柔らかな光がリリエルの肩を癒す。そして露になった胸板の傷を癒し、程なくしてフローレンスに扮していた鴻上彰尋が息を吹き返す。
　それに驚く者たちの声が毀れる中、刺客たちはラプターを、倒れたフローレンスを睨みつける。そして刺客の１人はラプターへ「裏切り者！」と叫ぶ。

　――その姿を見た曖浜瑠樹の中で何かがぷつん、とはじけとんだ。

「せっかく丸く収まろうとしていたのに！」

　少年は、転がされ捕縛された刺客たちの前に立った。
「もし魔女さんが殺されたら、次のアステリズムさんも疑うの？　もし悪くなったら、魔女さんみたいに、殺そうとするの？　ラプターさんが思い通りにならないから、殺そうとするの？」
　少年の、ぬいぐるみを抱きしめる腕に力が篭る。
「復讐の為なら、彼女を守る人も殺すの？　考えを変えた人も？」
　いつの間にか、少年は泣いていた。ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、怒りをこめて。

　――だから、この階層の竜さんが地震や雷起こすぐらい怒ってるんだよぉ！

　少年の叫びが、第六階層に木霊した。

　＊　＊　＊

　竜に咥えられた瓢は、真っ青になりながら第六階層じゅうをふりまわされていた。竜からのお仕置きである。
　和解を望まず、第六階層が抜け落ちる様を見たかった彼は水霊の外套を使い、魔物にみえるようにし、義勇軍を支持する家に放火を行ったのである。その他星守や中立派の人々を説得し争いの火種を大きくしようと画策していた。
　利鳥が密かに得ていた証拠などによりそのことが明るみに出ると、竜が彼を咥えて飛んでいったのである。

　大声を上げて泣いた瑠樹の叫びが決定打となり、義勇軍の人々は再度星守の人々と話し合う姿勢を見せた。その結果生まれたのが『第六階層復興委員会』である。フローレンスが再び過ちを犯さぬよう、そして、共に歩んで第六階層を復興させようと、誓って彼らは手を取り合うことにした。
　八神修は「言葉は人間が持つ力だ」と言った上で彼らを叱咤激励する。
「この階層は君達が支えているんだ、より良い方向になるように、今こそ建設的に話し合いをしよう」
　人々は拍手で賛成し、早速話し合いを始めるのだった。
　旧魔女の城にあった先代の隠し財産は、他の階層に売る事で莫大な資産となった。そのお金を補償や復興支援の資金にする事に。
　そして、ラプターはイーグレットと再会し、大粒の涙を流した。
「僕は、てっきり死んだものと……。フローレンスも何も言わなかったから……」
「でも、こうして帰ってきたわ。ラプター、もう、人に矢を撃つ必要はなくなったわ」
　イーグレットは彼を抱きしめ、慰めた。

　そして、復興事業の第一弾として、『第六階層復興委員会』は第六階層の竜を祀るお祭りを企画する事にした。御剣刀の提案を彼らがおもしろい、と採用したのであった。

「全て終わった、か」
　会議がひと段落し、お茶を飲む修にリリエルは首を振った。
「違います。ここから、やりなおすんです」
「あぁ、そうだな」
　修は、リリエルの言葉に頷き、静かな気持ちで頷いた。その視線の先では泣きつかれた瑠樹と、彼をあやしていた亮とサキリが仲良くうとうととしていた。

　第六階層での騒動は一旦終結する。
　だが、リリエルが言ったとおり、ここから人々はやりなおしていくのである。フローレンスは覚悟を胸に立ち上がり、人々はそんな彼女と共に歩む事を選んだ。それが実を結ぶのは、時間の問題であろう。

　冒険者達は自分達の力が役に立った事を誇らしく思うのだった。

（終）

このページにイラストを設定する