年の差を埋めることができたら何かが変わると思ってた。｜リアクション

年の差を埋めることができたら何かが変わると思ってた。

（……なんか、おっきくなってる？）

　楠木ゆきのは東条あんずに指摘されて自身の変化に気が付いた。
　ゆきのだけでなく、あんずも大きく変化している。それは服装を見ればすぐに理解できた。
　そして消えた千歳飴楓子は――

（楓子が、ゆきのたちの代わりに小さくなった……）

　ゆきのはテーブルの下から、楓子が座っていた席を覗き込む。
　そこにはソファーから落ちそうになっている２歳くらいの子供がいた。
　とろーんと眠たそうな目をした子で、耳には重たそうなピアスが付いている。
　髪の毛は短いため、わかりにくいが内側が水色。とくれば、彼女こそ楓子で間違いないだろう。
　ゆきのは「楓子がいない」と騒ぐあんずの服の裾を引っ張って、彼女の存在を教えてあげた。

「あ、いたー！　小さい！　どういうことだ？」

　理由はと尋ねられると、ゆきのも答えることができなかった。
　リトル楓子も何かを伝えようとしているが残念ながら「バブーバブー」としか聞こえない。

「あれ？　あれれ？　今気づいたけどウチもでかくなってる！」

　あんずは自身の大きく膨らんだ胸を触って、変化を確かめていた。
　ゆきのはというと、ひと通り状況が理解できたので今後のことで頭を抱えていた。

（……どうしよう？　このまま帰るわけにもいかないし……）

　さすがの両親でも、自分の娘とは気が付かないだろう。
　だからといってこのまま遊ぶのは……。

「で、何して遊ぶー？」

　ゆきのはパチクリと瞬きした。
　けれどあんずはまるで気にしていないようで、むしろ変化を楽しんでいるようだった。
　そんなあっけらかんとした様を見ていると、ゆきのの中の不安や悩みも瞬く間に吹き飛んでいく。

（……うん、このまま遊ぼう）

　小さく頷いてから、何にしようかと言わんばかりにゆきのは小首をかしげた。

「あーでも。ゆきの、服はそのままだとまずいかなー」

　あんずのショートパンツはかなりミニ丈になっていたが、ファッションと言われればそうとも見える状態になっていた。
　Tシャツはおへそが完全に出てしまうが、これもまたショートパンツと同じくである。
　さすがにパーカーは着れないようなので、あんずは腰に巻いていた。
　靴は、ちょっときついが履けないこともないらしい。
　しかしあんずが言うように問題はゆきのだった。
　ジャストサイズの甘いロリィタファッションなので、胸が苦しくて仕方がない。
　どうにかギリギリのところで破れてみっともない姿を晒すことはなかったが、このままでいればそれも時間の問題だろう。
　ゆきのはすっくと立ち上がり、楓子の隣に座り直した。
　一方的ではあるものの、楓子から服を借りるということで話をつけたのだった。

　ゆきのは少し大きいものの楓子の服を借り、楓子はゆきののシャツをワンピースのように着て、これでひとまず問題は解決。

「じゃ、さっそく行こっか！」

　あんずは
　
「……楓子、小さい。運ぶね」

(ふふ……楓子より、お姉さん。ゆきのが抱っこしてあげる）

　腕にすっぽりと収まるというには楓子は大きいけれど、それでもやはり小さい子供。
　そのなんとも言えない愛らしさを確かめるように、そっと腕に力を込めて抱きしめる。
　ちらりと楓子の表情を覗えば、彼女も彼女で満更でもない風に頬を緩めていた。

「ばぶ！」

　そして楓子はきっちり店を出る時に支払いを行ったのだった。