異世界からの迷い人｜リアクション

異世界からの迷い人

　薄青い空に緋色が滲む。
　レイリー・マクティーラは旧市街を走り回り、ようやく出会えた。
「やあ、レイ。意外と遅かったね」
　アルレッテ・ザメニスは赤い目を細めて言った。レイリーは呆れたような表情を返す。
「そうはいうけどな、この島は意外と広いんだぞ。それとだ、見つけてくれてありがとう、だろうが。言葉を間違えてるぞ」
「そうだね。お詫びに団子という物とお酒を買って、夜の景色を楽しむかい？」
　アルレッテは空に目を向ける。浮かぶ月に微笑んだ。レイリーが肩を組んできて、頭を強引に撫で回す。
「その案に乗ったぜ！　ま、無事でよかったな！　おっと、金はあるのか？」
「店の売り上げの一部が、こちらの世界のお金に変わっていたよ」
　藍色のズボンのポケットから何枚かの紙幣を取り出して見せた。
「じゃあ、安心だな。どこで景色を楽しむつもりだ」
「高いところがいいだろうね」
「なら、俺が走ってきた、あの山がいいんじゃね？」
　レイリーは横手の山に親指を向けた。アルレッテは即座に、いいね、と同意を示す。
「団子とお酒は私が用意するから、案内はレイに任せるよ」
「ハイハイ、神官様のお望みどーりに」
　片膝を突いたレイリーがふざけた調子で言った。
「レイリーさんの活躍に期待しています」
　アルレッテは神官に相応しい、厳かな口調で返した。

　九夜山の頂上展望台に二人が着いた頃には日が暮れていた。
　薄暗い空に白い穴のような月が浮かんでいる。周辺には幾つかの星が瞬いていた。
「今日はお疲れ様」
「お、悪いな」
　レイリーの猪口にアルレッテが酒を注ぐ。一口で飲み干して小ぶりの団子を口の中に放り込んだ。
「こりゃ、甘くて、うめえな」
「私もいただくか」
　団子に手を伸ばす。摘まんで半分を口に収めた。静かに口を動かす。
「柔らかいのに弾力があって、嫌味のない甘さがいいね」
「酒もうめえしな！」
　レイリーは自らの手で猪口に酒を満たす。一気に飲んで空に向かって息を吐いた。身体が火照ってきたのか。被っていたフードを脱いだ。
　アルレッテは周辺に目をやった。恋人のように寄り添う人々は眼下の夜景を見詰めていた。
「……問題ないか」
「あ、いいなー。見晴らしのいいところでお酒なんて、いいなー」
　アリス・ミーティアが遠巻きに二人を見ていた。アルレッテは酒瓶を両手で掲げた。
「一緒に飲みますか？」
「貰うね！　もう、歩き回って喉がカラカラなのよ」
　水色の長い髪を弾ませて笑顔でやってきた。アルレッテから酒が注がれた猪口を受け取る。
　瞬時に煽って飲んだ。すぐさま空になった猪口を差し出す。
「いい飲みっぷりだね」
「ありがとう！　すっきりした甘さが美味しいね」
　新たな一杯も数秒で飲み干した。その繰り返しが続く。アリスの頬が赤く染まる。あー、と急に声を上げてレイリーを指差した。
「耳がある！　ほしびとみたい！」
「ほしびとのレイリーだ」
「私はアルレッテ。もしかして、あなたも？」
「アリスよ。barアストラルで働いていて、ちょっと熱いわね」
　青色のコートを荒々しい手付きで脱ぎ捨てた。アリスの背中に白い翼が現れた。疎らではあるが、周囲に人はいる。
　声を潜めた早口でアルレッテがにじり寄る。
「アリスさん、背中に翼が」
「えへへ、びっくりした？　ちゃ～んと飛べるんだよ、ほらー」
　大きな羽ばたきで垂直に飛び上がる。
「わー、高いところだとよく見えるよー！」
　その声の大きさに二人は慌てた。
「て、天使が！？」
　周囲の人々が騒然となる。
　瞬間、三人は忽然と消えた。星幽塔に強制送還となった。

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