無人島一泊二日のフシギ旅｜リアクション

無人島一泊二日のフシギ旅

■ひとりの無人島生活　鎌八まもるの場合
　無人島と聞けば誰しもが寝床や食料を心配しますし、人間という生物が文明から切り離されたらどのくらい無防備になるかについて考えてしまうものです。
　電子レンジってすげーテクノロジーなんだなーとか思うものです。
　ですがそんな心配をまったくしないのが、鎌八まもるという男なのでした。
　理由を今説明してしまうのはもったいないことです。これからフルに発揮されるところですから。

「折角の無人島だし、ワイルドにやってみるかな！」
　着の身着のまま、アイテムひとつ持たずに無人島へ飛び込んだまもるがまず最初にやったことは、木に登ることでした。
　といっても木の皮に爪をたてたり、枝を掴んでよじ登ったりはしません。
　手からぴゃーって粘着する糸を放って高い枝にくっつけ、伸縮の力で大ジャンプ。
　そのまま一番高い枝に飛び乗るのです。
　それもバランス良く細い棒に乗っかるわけではありません。手のひらと足の裏を蜘蛛化して木の枝にぴったり張り付くのです。
「過ごすなら高いところがいいよな。できれば島を見渡せるくらい……おっ、あそこだ！」
　ちょっと高くなった山？　崖？　岩？　とにかく島の中でも大きくつき上がった所をめがけてまもるは走り出しました。
　勿論地面をダッシュではありません。放った糸を次々に渡しながら木から木へ高速で移動していくスタイルです。
　この動き、ジャングルでツタにつかまって『アー、アーアー！』とか叫びながらジャングルの王者になるあの動き、カタカナ四文字で説明できるのですが、この名前は思いっきり実在の小説や映画の固有名称なので言うわけにいきません。でもスパイディージャンプとなら、分かる人限定で言える気がします。便利。

　まもるが崖の上までたどり着くのは、そう難しいことじゃありませんでした。
　脅威になりそうな動物もいませんでしたし、なにより高低差や角度というものに対してまもるは無敵だからです。
　もっと言えば、人目のない無人島でなら蜘蛛に完全変身して蜘蛛らしく過ごすこともできるので、もはや無人島は彼にとってただのお家と化していました。
　軽く巣を作って寝床を確保しつつ、途中でとってきた果物をしゃくしゃくやりながら夜を待つのです。

　蜘蛛と人をいったりきたりできるというのは、どんな気分なのでしょうか。
　一番近いのは、ハンモックに揺られて眠る時です。
　まもるは（丸腰とは言ったものの）唯一持ち込んだハーモニカを吹きながら、夜空をぼーっと眺めていました。
　自分の糸でつくった疑似ハンモックに揺られながら、空しか見えない夜を過ごすのです。
　夜だというのに、あたりはまるで暗くありませんでした。
　星明かりが強すぎて、そしてどこか静かすぎて。
　まもるは蜘蛛に変身して、しばらくゆっくりすることにしました。
　まるで野生にかえったような、不思議な気分でした。

　翌朝、人間に戻っていたまもるが糸に絡まって逆さに吊られて眠っていた所を仲間に発見されて、軽く騒動になりました。
　魔物の居る島に出てくる最初の犠牲者みたい、だったそうです。

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