無人島一泊二日のフシギ旅｜リアクション

無人島一泊二日のフシギ旅

■ひとりの無人島生活・伊織源一の場合
　むかしむかしじゃないあるところ、というかリゾート無人島に熊がおったそうな。
　……いや、熊っていうか熊みたいな人というか、伊織源一がおったそうな。
　モノによっちゃ熊より強いかもしれない源一は、シャツとジーパンのみで無人島へとやってきたそうな。
「勉強ばかりで身体が鈍っていたところだ。山ごもりならぬ島ごもりとは、いい肩慣らしになるぞ」
　山に籠もったら普通に数週間帰らなかったりしそうな野生の源一は、何事もまずは寝床からとか言い出してその辺の木を切り始めました。
　といっても人類の英知こと木こり斧やチェーンソーがあるわけではないので、枯れ始めた木の枝を空手チョップでボキボキ折りながら集めていきました。
　なんで枯れ木かっていうと、生木は水分を含むので寝床に敷いても身体を冷やしやすく、一方で枯れ木は水分が抜け内側が空洞っぽくなっている分断熱効果を持つんですね。
　そのうえ枝降りを残したまま積み上げていくと軽くクッションぽくなるので寝床に丁度良くなるわけです。この上になめした獣の皮とか敷くといいベッドになります。スプリングベッドの要領ですね。
　とはいえ、今日は枝と枯れ草だけです。
「このくらいでいいだろう。一晩過ごすには充分だ」
　言い忘れておりましたが、源一は枝を集め途中で風が通りにくそうな洞窟（この場合は岩にあいたくぼみみたいなもの）に寝床を確保していました。行動原理が軽く熊でした。
　いい寝床を作ってちょっぴり機嫌が良くなったのか、試しに寝転んでみる源一でした。
「これでウサギでもとれれば理想的なんだが……」
　たき火にさばいたウサギ肉を翳して、焼きたてに食らいつくさまを想像して口元をぬぐう源一。とはいえ一日でウサギを見つけるほどの感覚に持って行くには、最近は勉強モードになりすぎていたようです。
　獣の痕跡や僅かな足音を察知して捕まえるハンターと化すには、もう暫くこの環境に身を置く必要があったでしょう。源一なら一週間もすれば立派な野生動物になりそうですが。「いや、この気配……蛇か」
　前言を撤回しましょう。
　既に野生の源一でした。
　両手を熊手のようにして広げ、つま先で足音を殺しながら歩きます。
　暫く進むと、茂みの中にわずかに光るものを見つけました。
　小石を投げて注意を引きつつ、素早く手を伸ばして相手の首を掴みます。
　そう、蛇の捕まえ方は首根っこをガッてやることなのです。
　つまみ上げてしげしげと眺め……。
「毒のないタイプだ。こちらを襲う種類でもないが……今晩はこいつをいただこう」
　首を押さえて気道を閉めることで殺し、鋭く割いた枯れ枝をさしてたき火に翳します。
　ナチュラルに火ぃ起こしていますが、実は人類が生身で火をおこす手段くらいは（選ばなければ）いくつもあるのです。なので割愛しておきますね。ヒントはさっき集めた枯れ木と草です。

　自らの手で命を頂く行為は、人を野生に帰します。
　巡り巡って自らの肉体が山のサイクルに組み込まれたことを感じながら、源一は夜の鍛錬を始めました。
　よい空気と静かな空。
　身体に染みついた型を繰り返す時間。
　源一は一日で野生に帰り、そして次の朝は人里へと戻るでしょう。
　またすぐに山へ籠もるかもしれませんが。

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