コミックヒーローズ　ダークナイト・カミング｜リアクション

コミックヒーローズ　ダークナイト・カミング

■輝け、美しき僕！
「月夜に輝く一つ星。花咲く香りに誘われて、ロージープリンス――華麗に推参！」
　街灯の上に立つ真っ白いフォルム。
　タキシードをモチーフとした彼のヒーロースーツの胸には一輪のバラめいたバッジが輝いている。
　彼の名は花椿涼太郎。またの名をビューティフルヒーロー・ロージープリンス！
　白手袋で前髪をかき上げるやいなや、輝きと共に飛び上がった。
「さあ、神々しい僕を見よ！」
　ピエロメイクの集団が放つサブマシンガンの銃撃をかわし、彼らの背後に着地する。
　慌てて振り返る彼らにウィンクすると、さらなる輝きと共に跳躍した。
「ははは、僕はこっちだよ。目を離しちゃあだめじゃないか！」
　爽やかに笑うが、彼から放たれる謎の光が相手の目をくらませ、まるで銃撃が当たらないのだ。
　その性質を誰よりも理解している彼は、相手を輝きと言動でひたすら翻弄させてから軽やかに倒すというスタイルをモットーとしていた。
　最後にナイフを抜いたピエロメイク――の背後に立つと、後頭部へ手刀を鋭く放って気絶させた。
「一件落着っ、と！」
　振り向き、カメラ目線で前髪をかき上げてみせる。
　甘いマスクには汗一つかいていない。
　……あ、カメラ目線という言葉を使ったのはカメラがあるからです。テレビ局のです。しかも二台です。
「ちょっと２カメくん、だめじゃあないか僕の横顔をそんな角度から映したら。逆光でよく見えないだろう？　今のシーンだけ撮り直すから、回り込んで、そこだよそこ」
　ガムテープでバッテンを書いてカメラの位置を指定すると、ロージープリンスはさっきのピエロメイクをよいしょと言って起き上がらせた。
　気絶しているので何度かぺしぺし顔を叩いて意識を戻し……。
「じゃあきみ、ここに立っていてね。銃をこっちに向けて。よしいいぞ！　素晴らしい！　ではカメラスタート！　――ハッ！」
　でもってもう一回後頭部をガッてやった。
　ぱっと見分からないと思うが手刀のインパクト部分だけスタンガンのようになっていて相手を気絶させる仕組みになっているのだ。なんでかって、そういう風に倒した方がかっこいいからだよ！
「フフ……一件落着！」
　振り返り、カメラ目線で再び前髪をかき上げるロージープリンス。
「それにしても、今日は随分悪人が多いじゃないか。何かあったのかい？　……うん？」　震える携帯電話。それを美しく取り出して耳に当てると、カメラ目線のまま話し始めた。
「あなたの心のオアシス、ロージープリンスです。ご用の方は……あっ、プロデューサー！　お疲れ様！　今度の映画の件はよろしくね！　スタントも僕がやるから、ヒロインに城山水樹を呼んでね。あとエキストラに桃川圭花って子を呼びたいんだけど、え、なに……？」
　しばしの沈黙。
　動くこと無く、するりと手から携帯が滑り落ちる。
　その時の彼の表情がどんなものだったのかは分からないが、カメラマンはあまりの恐ろしさに命より大事なカメラを取り落とした。
「『ヤツ』が、脱獄しただって……？」