コミックヒーローズ　ダークナイト・カミング｜リアクション

コミックヒーローズ　ダークナイト・カミング

■Ｂパート　ベイビーブレス・リバイバル
　駅から１分の安アパートに住み続けるのは、うたた寝をしてもすぐに列車の騒音が起こしてくれるのと、嫌な声を騒音のせいで聞かなかったことにできるからだ。
　夢に見るのはいつもあの日。桃川圭花の『ビギンズナイト』だ。
　黒い雨の降る裏路地に、一人の少女と一人のヒーローと、そして自分が居合わせた。
　特に目的もなく訪れたその場所は、特に目的もなく与えられた運命に似ていた。
　少女は気を失って倒れ、ヒーローは壁に背を持たれていた。胸には大きく血が広がり、彼の黒いスーツをより深く染めていた。
　例えばあの日、うぶな少女のように悲鳴を上げて逃げていれば良かったのだろうか。
　もしくは無関心な雑踏に混じって通り過ぎてしまえば？
　自分は、桃川圭花は、しかしそうしなかった。
　死に行くヒーローにほだされたのか、ぴくりとも動かない少女を哀れんだのか、それとも派手なスーツを着てホビーショップを爆破するピエロメイク集団に怒りがわいたのか。
　とにかく彼女はヒーローの持つ力だけを受け取って、黒煙のあがるホビーショップへ走ったのだった。

　時間ぴったりに目が覚める。列車の音が部屋中を揺るがしている。
　もう少しばかり目を覚まそうとテレビをつけると、黒煙のあがる刑務所が映っていた。
　かつて見たゲームショップさながらの。
　さながらの。
『よう見てるかい、ベイビー！　今から町をメチャクチャにするんだ。一緒に遊ぼう！』
　あの夜に捕まえたピエロメイクの男が、カメラに向かって笑っていた。
　そして拳銃を三発放って、カメラ映像はノイズにまみれていく。
　やがて列車の騒音が消えた頃、誤魔化していた声が聞こえてきた。
『ベイビー、君の出番だ。町の平和が脅かされている』
「ああもうっ！」
　圭花はリモコンをベッドに叩き付けると、立ち上がって頭をぐしゃぐしゃやった。
「分かったわよ、行けばいいんでしょ！　だから、いちいちベイビーって呼ぶな！」