カメラを持って外に出よう｜リアクション

カメラを持って外に出よう

■桃川圭花のニャンスタグニャム
　インターネットの発達は色々なものを引き上げた。
　誰もがコメンテイターで、誰もがクリエイターになるこの時代。
　高い山を登らねば手にできなかったチケットが、今や雨のように降ってくる。
　ある少女の手にもそのチケットは下りてきた。
「ふっふっふ、ついに来たわねこの時代が」
　桃川圭花、１６歳。
　五線譜のソがどこにあるのかよくわかんなかったり、動物の柄を縄文時代の壁画みたいにしちゃったり、キッチンでお湯を沸かしながら思いついた創作ダンスが『ネコの盆踊り』だったりする圭花である。
　モデルがいいだけに、そのギャップはちょっとしたネタにすらなっていたのだが……。
「けどカメラなら、ボタンひとつで画がとれるじゃない。最近のスマホは優秀だし、手ぶれだって補正してくれる！」
　時代が追いついた。圭花はそう確信した。
　……スマホ片手に外へ出るまでは。

　誰もが必ず思うこと。
　『視界』と『画角』はなぜこうも違うのか。
　光が満ちてキラキラしている風景を撮影しようにも、撮影できるのは限られた四角い範囲のみ。しかも撮影したらしたで妙にてかっていて、見たときの感情とだいぶ違うものができあがるのだ。
　分かるかどうかわかんないけど、自分の声を録音して聞いたときと似たような『これじゃない感じ』である。
「みんなは、どんなものをどんな風に撮ってるんだろう……」
　ショーウィンドウに映る自分を何気なく撮影してから、他のアカウントを眺めてみる。
　空中で途切れた非常階段や、更地にぽつんと残ったレストランの看板や、『止ま』で途切れた道路標示。トマソンというものらしい。
　青い空にある雲ばかりを写して感想をコメントするアカウントもあった。
　花やネコばかりを写すものもあれば、だまし絵のような写真をとるもの。ひたすら自撮りに拘るものまで。
　自撮りさん（本条さんである。ネットに顔出しすることに躊躇が無い）に至っては、圭花の自己評価をゆうに超える吹っ切れっぷりであった。
　そして、どれもこれも。
　誰かの思いや人柄が、写真に出ているように思えた。
「……写真で自分を表現、か」
　さきほど撮影した、ショーウィンドウを眺める自分の写真を見返してみる。
　そんな時である。
　道ばたのネコに一眼レフを向けて語りかける男を見つけた。
「あれって……八神君？」