カメラを持って外に出よう｜リアクション

カメラを持って外に出よう

■マリベル・ロイスのニャンスタグニャム
　ニャンスタグニャムの主な使い方は？
　自宅で飼っているネコを撮影してはアップする。今日のご飯を撮影してはアップする。思い出を残す。帰り道を撮影してちょっとだけ特別な今日を見つけてみる……などなど。
　マリベルも普通にニャンスタを使う女子高生である。
　しかし使い方はちょっとばかり他と違った。
　情報発信。
　それも、寝子島の雰囲気を世界に発信するという楽しみである。
「ふふー、寝子島文化の発信はたのしーなー」
　独特のなまりのある口調でスマートホンをてしてしやるマリベル。
　場所はよく行くカフェの店内である。
　木製テーブルにのったコーヒーカップとケーキを撮影してから、スライドするように店内に飾られたバイオリンを撮影していく。
「よし、今日のテーマは寝子島にある音楽や！」
　音楽を写真で伝える。
　ひとくちに言うと難しいことだが、マリベルの頭には既に構想が浮かんでいた。
　今撮影したテーブルとバイオリンだけでも、既にちょっとした意味をもつのだ。
　たとえばバイオリンは元々家具として使われた木材から転用されることがよくあって、木は家具として使われれば家具らしい振る舞いをし、楽器に変われば楽器らしい振る舞いをし始めるのだという。
　技師によれば『木は生きているので自分の役目を察するのだ』というらしいが……。
「そうと決まれば別のお店へＧＯや！」
　軽くカフェを楽しんでから、マリベルは店を飛び出した。
　なんとなーく話に聞いたことのあるウィークエンドカフェという、週末にしか開かない特別なカフェに行ってみることにしたのだ。
　それはキャットロードからも大きく外れ、商店街からも外れ、住宅街の一角にあるアパートの二階……という、軽く騙されたと思うような場所に存在していた。
「……大丈夫なんやろか。どう見ても人の家やん」
　それこそ騙されたと思って階段を上れば、半開きになった扉とその下にぽつんと置かれた小さなカフェ看板が目に付いた。
　扉の隙間からはジャズミュージックが流れている。
　ほう、なるほどカフェではないか。
　まずは入り口の風景を撮影してから、中へ入ってみる。
　するとなんか普通のにーちゃんがエプロンして『いらっしゃいませ』と言い出した。
　薄暗い店内。というか誰かの家である。にーちゃんは暫く会話に困ったようなそぶりを見せた後、座ってくださいと言った。
　そう言われても、店内にはソファー二つとカウンターテーブルしかない。とりまカウンターにつくように座ると、にーちゃんは注文も聞かずにある場所へ走った。
　店の端。
　二つ置かれたレコードプレイヤー。
　今店内で流れているジャズはそこからのもののようで、壁際にはいくつものレコードがかけられている。
　そのうちの一つをとり、今流れる音楽と溶け合うように、器用に次の音楽へと入れ替えていくのだ。
「ほう……」
　その姿を思わず撮影するマリベル。にーちゃんは照れた様子ながらも撮影に応じ、そして注文をとりにきた。
　ベルギー産のチョコレートと、ちょっと苦めのコーヒー。
　そして丁寧に『演奏』されるジャズレコード。
　まるで粗末なこの空間が、どこか贅沢なものに思えて、マリベルは再びスマホの撮影ボタンを押した。

　その後マリベルは、本屋さんに併設されたカフェに行って角に置かれたピアノを撮影したり、そのピアノを演奏しにくるドレス姿のおばさんを撮影してみたりした。
「うーん、やっぱりこの島には音楽があふれとる。最高の島や……」
　うっとりした気分で音楽にひたる。
　それは週末の何気ない時間。
　マリベルにとっての、特別な時間と場所。