カメラを持って外に出よう｜リアクション

カメラを持って外に出よう

■柚瀬玲音のにゃんすたぐにゃむ
　ひゅーんとけしきが飛んでいく。
　風になったみたいに、世界がとっても早くなったみたいに、いろんなものを置いていく。
　そのかんじが、玲音はたまらなく好きだった。
　できることならお空をすいーっと飛んでいきたいと思ったし、鳥みたいに羽ばたくだけで雲の上へいければいいと思ったりもした。
　目をつぶってどこまでも飛べればいいなんて、そんなふうにも思う。
　けれど今日は。
　今日だけは。
　立ち止まって見ることにした。

　たまには立ち止まって遠くの景色をながめるのもいいかも。
　そう思って、玲音は自転車を降りた。
　アスファルトを割ってさく、小さな花を見つけた。
　学校帰りに何気なく見つけるような、それはそれは当たり前の光景だったけれども。
　前にテレビで見たＣＭのせいだろうか。それとも学校で聞いた写真家さんの話のせいだろうか。
　とにかく、玲音は思いつきで鞄からトイカメラを取り出した。
　そして花を正面にすえて、パシャリとシャッターをきるのだ。

　少し進んでいくと、植え込みがわずかにゆらゆら動いているのが分かった。
　いつもなら自転車で通り抜けてしまう光景だけれど、立ち止まってみると見えてくるものがあるようだ。
「だれかいるのかな？　ねこー、ねこー？」
　呼びかけながらそーっと近づく。
　すると、植え込みの間からやたら不細工な顔のネコが顔を出した。
　こちらに向けて『うなんな』と呼びかけてくる。
　それがおかしくて、玲音はカメラを向けてみた。

　『止まった時間』の、小さな発見。
　それが、玲音が決めた今日のテーマである。
　自転車をとめて立ち止まれば見える景色。
　かがんでじっとしていると寄ってくるなにか。
　ゆっくりと動く雲や、傾いていく太陽や、どこかへ行く風や……。
　地面に落ちたどんぐり。
　狭いのに広い駄菓子屋さん。
　普段風のように通り過ぎる景色を、玲音はゆっくりと歩きながら撮影していった。
「うなんな」
　またあのネコだ。
　こんな所まで来るんだな。そう思ってカメラを向けると……。
「あれ？　玲音ちゃん」
　見知った顔が、ネコと自分にスマホのカメラを向けていた。
「けーかおねーちゃん！」

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