【卒業式】春爛漫。寝子島高校の卒業風景｜リアクション

【卒業式】春爛漫。寝子島高校の卒業風景

【証書授与（４）】

　講堂の在校生席へ腰かけ、式の進行を見守る佐藤英二の反応は、いかにも普通の高校生といったところです。壇上で涙に声を詰まらせた先輩には、
（が、頑張って……！）
　とエールを送り。パフォーマンスでウケを取ろうとしてか、慣れない一発ギャグなど披露し一瞬空気が凍り付いた時には、
（ちょっとスベった……？　けど、ＯＫ！）
　きりりと顔を引き締め、証書授与も完璧に、在校生へのエールも送って見せた素敵な先輩には、
（……うん。カッコイイなぁ）
　などなど。心の中で逐一感想を述べながら、思わず見入ってしまったり、自分までぐっと拳に力がこもってしまったり、クラスメートたちと揃って大きな拍手を送ったり。素直に真っすぐに、先輩たちの高校生活最後の舞台を眺めておりました。
　英二自身は、卒業生たちとそれほどに深く交流したことはありませんでした。ただ、先日は卒業生を送る会にて何人かの先輩たちと触れ合う機会があり、とても楽しい時間を過ごすことができました。
（その先輩たちも、いよいよ卒業かぁ）
　今まさに階段を登っていく河島澪のことを、英二は知らないかもしれません。けれどそれはあまり関係がないのだと、英二自身も思います。
（在校生として、精一杯お見送りしよう……！）
　相手が誰であったとしても、どうやらその気持ちに、変わりはないようです。

　卒業式という行事ではありながら、細かいことにはぱちりとお茶目に目をつぶって許してくれる、我らが寝子島高校の度量の深さゆえにでしょうか？
　本日の澪はやっぱり、男子制服姿でありました。壇上へ上がり証書を受け取っただけで、主に後輩の女子生徒たちから、キャーーーッ！　なんて黄色い悲鳴が巻き起こります。
「ほっほっ、大人気だねぇ。じゃ、何かひと言よろしくね」
「おっと。それじゃ、お言葉に甘えて」
　と校長先生にマイクを渡されて、くるりと場内を振り返った澪は、
「やあ、君たち」
　きらーん！　つややかな唇からちらりと覗く白い歯を輝かせながら、にっこりスマイル！
「可愛い君たちに会えなくなってしまうのは、とても残念だ。第二ボタンが欲しい子がいたらおいで、プレゼントするよ。ついでに、一緒にお茶でもどうだい？　ふふっ、待ってるよ」
　なんてことをマイクにささやいたとたん、ィィィヤァァァーーーッ！！　黄色い、というよりホンマモンの悲鳴みたいな後輩女子たちの声がキンキン響き渡り、澪は彼女たちへウィンクとともにちゅっと投げキッスを贈って、証書片手に壇を降りました。
（いやはや。さすがは寝子高だな）
　自分の席へと戻りながら、澪はいい気分で、想いを巡らせます。
　澪は３年生からの転入生で、寝子高の卒業風景を目の当たりにするのは、これが初めてのこと。そのはっちゃけぶりには、ついつい感傷よりも楽しむ気持ちが先に立ってしまうようです。
（とはいえ、やっぱり……もの悲しさはある、か）
　１年間の寝子高生活ながら、思い出はいくつもありました。澪はその中でもことに印象深い、寝子祭の一幕など脳裏へ思い浮かべて、思わず頬をゆるめます。
（あれは楽しかったな……おっ）
　歩くうち、射撃部の後輩、八神修や椿美咲紀がこちらへ小さく手を振り、笑顔を浮かべているのを見つけました。ボクシング部の後輩、新田亮が神妙な顔でぺこりと頭を下げたのも。
　彼らの顔を見返すうち、ふと、澪の頭にひらめくものがありました。
　澪はこの春から、木天蓼大学教育学部へ進学することが決まっています。
（そうだな。将来、教師としてここへ舞い戻るなんていうのも、いいかもしれない）
　そんな未来だって、あり得るかもしれません。そう思うと澪の胸にはより鮮明な感慨が生まれ、自然と浮かぶその微笑みには、澪の一挙手一投足に注目する後輩女子たちの間から、ニャーーーン！！　と悲鳴が上がりました。

（……派手だなぁ）
　英二は思わず心の中で、ぽつり。率直な感想を述べました。
（でも……カッコイイな）
　卒業生たちは後輩たちへと、多くのものを残していってくれたようです。英二の胸には今、受け継いだ想いや意思が確かに、あたたかく灯り息づいています。