【卒業式】春爛漫。寝子島高校の卒業風景｜リアクション

【卒業式】春爛漫。寝子島高校の卒業風景

【母校に響く歌】

「皆さま、ご起立を願います。寝子島高等学校校歌、斉唱！」
　教頭先生の声に、場内一同が一斉に立ち上がります。
　つかつかつか、とやってきたのは音楽教師、津止孝道先生です。いつものコワモテもますますいかめしく、ぴりりと走る緊張感。
　彼は吹奏楽部の面々の前へ立つと、音もなくすっと取り出したタクトを振り上げて、びゅ、びゅっと指揮を始めました。とたんに流れ出す、軽やかで疾走感あふれるメロディ！
　前奏が始まったところで、優木遥斗は何だか急に、身が引き締まるような思いを胸に感じます。向こうに見える卒業生たちの纏う空気が、少し変わったような気がしたからかもしれません。
（卒業、か）
　遥斗にとってもそろそろ聞き慣れたメロディでありながら、卒業生たちは単純に言って、その３倍も耳にしてきたはずの演奏です。蓄積されている思いは、遥斗とは比べものにならないことでしょう。
　そしてそれは、遥斗自身もまたこれから経験していくことになるのです。
（そうだ……俺も来年は、２年生だ）
　４月からは、下級生だってやってきます。遥斗もまた、先輩と呼ばれるようになるのでしょう。
（自覚を、持たなくちゃな）
　すう、と大きく息を吸い込み。とりわけ音痴でもなく、さりとてとびきりの美声でもなく、遥斗は遥斗らしい明朗で大きな声で、歌います。
　我らが寝子島高校の、校歌を！

──陽光そそぐ学び舎に
我らを育む寝子ヶ浜の風

　きちんと背筋を正して、お腹から声を絞り出します。
　剣道で鍛えているためか、遥斗の声は良く通りました。肺活量だってバッチリです。

また旅人が耳を澄ませば
波音安らかに聞こえん

　吹奏楽部の演奏に、いつの間にやら夢宮瑠奈のフルートと、伊勢エリカのチェロも合流。
　のびやかで、時折調子を外して遊びも交えつつ、フリーダムな演奏模様はまさしく、寝子島高校の育む心意気。

自由な日々（ねこじまメモリーズ）寝子島高校　寝子島高校

　典型的普通の寝子高生、佐藤英二もまた声を限りに歌っています。卒業生を気持ちよく送り出そうという気持ちを込めて、思い切り。
　近くで野々ののこちゃんが、大粒の涙をぽろぽろとこぼしながらわんわんと声を張り上げているのも、英二の喉に力がこもる理由のひとつだったかもしれません。

諸星のぞむ学び舎は
九夜山の尾にてうちたてられん

　吹奏楽部の隣では絢霧満も旗を振り、エールを送るのと同じくらいに大きな声を響かせます。
　応援団の熱き志を背負い、魂を込めて、全力で！

たとえさざ波起こりても
ともに明日へと歩まん

　今、場内を満たす声はうねりのように絡み合い、重なり合って、やがてひとつとなっていきます。

絆は固く（ねこじまジャスティス）寝子島高校　寝子島高校──

　……遥斗はとりわけ、３年生の誰かにお世話になった、という意識があるわけではありません。
　けれどそこは、体育会系気質の染みついた彼のこと。剣道部の先輩方や、それでなくても３年生たちを敬う気持ちは、人一倍に強いものです。
　歌い上げた今、彼は誰に言われるまでもなく、自然と頭を下げていました。
「ご卒業、おめでとうございます。今までありがとうございました……！」

　そんな中。緞帳の裏っかわにて、ちょっとしたやり取りが繰り広げられていたのを、多くの人々は知る由もありませんでした。
「ちょっ、理事長先生……！？　本当に流すんですか？」
「だってそのほうが面白いじゃない？　ほらほら、おやんなさいってば！」

ここは寝子島　マジで良い島　セーイ？
寝子島高校我は親孝行イェー！
全てのものに感謝特にかーちゃんマジ感謝！　ＹＯ！

　寝子島高校、幻の裏校歌がずんちゃかずんちゃとノリよく流れ出したもので、教頭先生の顔はサッと青くなり、指揮をしていた津止先生はピシリと固まり、父兄の皆さまは揃ってみんなズッこけました。

今日も外では猫のさかり声
おおフリーダム　おおフリーダム
今日も外では猫のさかり声

　緞帳の裏では床に転がった理事長先生がお腹を抱えてケラケラ笑い、鴻上彰尋は額に手を当てやれやれ……とため息。
　調子に乗った南波太陽くんがマイクを奪い取り、叫びます。

＼サンマさんもがんばってるよー！／

寝子高　寝子高　寝子高　寝子島高校

　ずんちゃかずんちゃ、ずんずんちゃかちゃか。
　マイクは久保田美和先生の手に渡り、先生はどこか意味深にぽそりとつぶやきます。

「光があれば必ず影ができるよね？」

ソレは考えない　考えない　考えない　考えない
綺麗事しか考えない　Ａｈ　Ａｈ

　高野有紀先生が浅井幸太先生の肩を引っつかみ、ぐいぐいと揺らしながら、カカカカ！　と笑います。
　白沢絢子先生は両手を組んでうっとり、のびやかな声を響かせ、島岡雪乃先生は恥ずかしそうに、けれどちょっぴり楽しそう。

今日も外では猫のさかり声
らっかみさまのご加護ありにゃにゃにゃにゃーん

　３年生の担任たちは肩を組んで並び、在校生も、卒業生たちもつられて一緒に歌います。
　最後は父兄も交えて場内一同、ぴたりと声を揃えまして。
　さん、はいっ！！

＼にゃにゃにゃにゃーん！！／

「……寝子高の卒業式、すごいな」
　大らかにも程がある！　毎年こうだと言いますから、さすがは我らが寝子島高校です。自分もそのうちこうやって送られるのか……なんて思うと、遥斗も思わずちらり、苦笑いを浮かべてしまいました。
　けれど同時に、こうも思います。
（これからも、相変わらずこの学校は明るくて騒がしくて、時々不思議なことや変なことも起こって。時には、俺や同級生たちが危険な目にあったりもして……それでも、自分らしく）
　こんな寝子高らしさを、引き継いでいけたなら。
　巻き起こった大歓声と拍手に包まれながら、遥斗はおぼろげに、そんなことを考えていました。

　最後は理事長先生が後を引き取って、マイクへ告げました。

「これにて、第５９回私立寝子島高校の卒業証書授与式を終わります。

　みんな！　……これからの人生、思いっきり楽しんでいきなさいよね！！」

　吹奏楽部の演奏する、生米倶楽部の名曲『夢想飛行』に乗って、卒業生たちは悠々と、胸を張って退場していきます。
　爽やかで晴れやかな顔。ぐしょぐしょに泣き濡れた顔。彼らの顔はさまざまでありながら、そこには一様に、希望がありました。目の前へと続く道に向かって歩き出す、決意がありました。

　さあ。巣立ちの時です！

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【卒業式】春爛漫。寝子島高校の卒業風景

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