【卒業式】春爛漫。寝子島高校の卒業風景｜リアクション

【卒業式】春爛漫。寝子島高校の卒業風景

【証書授与（３）】

（長い……長い、１年だったんよ）
　どこまでもマイペース、のんびり屋な絢霧満の１年ですから、それはもうのんびりとして長かったことでしょう。
　その間には、３年生の先輩たちにだって、大いにお世話になりました。満の胸へといっぱいに詰まっている思い出は、そのどれもがきらきらとまぶしく輝いています。
　だから彼は、思います。
（盛大に、見送ってやりたいんよ）
　彼は今寝子島高校の制服ではなく、裾の長い学ランを身に纏い、頭には真紅のハチマキを締めています。たすき掛けだってキマってますし、胸にはぴかぴか銀色に光るホイッスルが揺れています。
　寝子島高校応援団は、消え去って久しいその伝統を憂いて、栄光を取り戻さんとして１年生たちが復活させたもので、満もまたその一員なのです。
（成り行きで入らされたとはいえ、俺も応援団なんよ。出来る限り、応援団らしい応援で送り出すんよ！）
　のんびりな彼も、今日はバッチリ気合十分！
　とはいえ、ちょっぴり心配もあったりしまして。
（さすがに大声で、フレー！　フレー！　ってエールを上げるのは、邪魔になるかもしれんね……）
「……いいんだよ」
　悩む満の肩を、ぽむっと叩く人物がありました。
「あ。教頭先生！」
「思いっきりやろうじゃないか。今日は卒業生たちの、晴れの舞台だからね。全力で送ってあげようじゃないか」
　実は応援団の顧問も務めていたりする、できる男。教頭、黒崎俊介先生！
　グッ、とサムズアップしつつ、とっても良い声でそんな風に言ってもらえたもので。
「分かったんよ！　３年生の人らのために、思いっきり応援させてもらうんよ！！」
　満はがばっと応援団旗を振り上げて、すうっと大きく息を吸い込み、声の限りに叫ぶのでした。
「フレーーーーーーッ！！　フレーーーーーーッ！！　寝子ッ！！　高ッ！！　生ッ！！」

　笠原七穂先生がいつものはきはき元気な声で、７組の生徒たちを呼んでいきます。
「芽森菜々緒！」
「……はい」
　白亜の女王。彼女の卒業に当たっては、きっと思うところある生徒も多かったことでしょう。数々の事件を経て、なおこの場に立っている菜々緒の姿には、たくさんの安堵の視線が寄せられました。

　８組担任、瓜山メイ先生の目元はやっぱり、じわじわ、じんわりと涙目。感極まってしまっているようです。
　それでも教師としての心構えは忘れずに、生徒を呼ぶ声だけははっきりくっきりと。
　かと思いきや、９組の吉田熊吉先生は、大号泣だったりします。天井を仰ぎ、唇を噛み締めて、くううっ……！　男泣きです。
　巨漢のクマ先生が涙に声を詰まらせ、震えた声で生徒たちを呼ぶ様には、生徒たちも父兄もそろって、もらい泣き！

「フレッ、フレッ、寝子高生！！　フレッ、フレッ、卒業生！！」
　満は叫び、団旗を翻します。旗はとても大きくて、１度や２度はともかく振り続けるのはかなりの重労働です。
　けれどそこは、満もまた胸に抱いた応援団員としての心意気、男としての矜持……！　そんなものがきっと、彼を支えているのでしょう。
　ちなみに教頭先生もお手伝いとして、彼の声に合わせてどんどこ太鼓を叩いてくれていたりします。スーツを腕まくり、額に汗をにじませる彼の好意に応えるためにも。そして何より、卒業生たちのためにも。
（俺には、これくらいしか出来んかんね……思いっきり！　全力で！）
　倒れそうになるまで、満は旗をぶおん、ぶおんと振り続けました。
　やがて、９組までの生徒たちが証書を授与されたところで、満は団旗を立て台へ戻すと、両腕をクロスして掲げてから腰へと振り、
「押ッ忍！！」
　気合の迸りとともに、応援をしめくくりました。