ミートダークファンタジー！｜リアクション

ミートダークファンタジー！

【騒動編】

　八神は友人の伊賀を見付けると、鍋の具の肉をつつきながら歓談し始めた。
「僕も八神氏の活躍を聞き及んでいるよ。お手柄じゃないか」
　伊賀はササミにかじり付きながら数度頷いた。
「同じ学校だろ。俺の力が役立つなら……それで……」
　気恥ずかしそうに八神は肉を頬張った。
　そして、自身のろっこんに『人を助ける力』がある事を知って、自信が持てたと伊賀に伝えた。
「ふむ、八神氏の言葉は胸を打つね」
　伊賀もあの時は人命救助（？）を行っていたのだが、結局スパッツ愛を伝播させた事がやたら印象に残り過ぎている。
「俺の力が必要ならいつでも駆け付ける、これからもよろしく」
　いい笑顔のまま、鍋のおかわりをもらおうと彼は寮生が群がる鍋の近くへ進んでいった。
「あ、八神氏、吹っ飛ばされた……」
　伊賀は本日５本目のササミをもぐもぐ喰みつつ、安全圏から八神のモッシュ＆ダイブを見学していた。

　冴来は乱痴気騒ぎの人の輪を遠くから眺め、１人孤独を感じていた。
「何故でしょうね。なんだか気分が優れない……。騒がしいのは嫌いじゃないけど……、今日は、一人だけ取り残された様に感じるの」
　鍋の湯気が星空へ吸い込まれていく。冴来は自然と星を見上げていた。
「周りはこんなに賑やかなのに寂しいだなんて、私どうかしてる……。楽しそうな人達、羨ましい。一緒にいて欲しい人はいるけど……、今の私、こんな風だもの。楽しんでいるのを邪魔しちゃ駄目……」
　自然に彼女の足は鍋の焚き火から発せられる光から遠ざかり、暗がりに向かってしまう。
「一緒に欲しい、なんて言えない……。大切な人だもの。迷惑なんてかけられない……。なんだか泣いてしまいそう。私１人鬱屈としていて、馬鹿みたい」
　堪えようとすればするほど、涙が堰を切ったように溢れ出てしまう。
「こんな顔、妹のももに見せられない……！　もう部屋に戻ろう……！」
　ひっそりと部屋に戻ろうとした冴来は顔を伏せたまま鍋から背を向けた。
　と、数メートル歩いて誰かにぶつかった。
「誰よ……？　前見て歩きなさいよ！」
「それはこっちのセリフだぜ？　花風姉？」
　その声に、冴来は悲喜交々な感情が降って湧いた。
「クロウディア！？」
　目の前の人物は、クロウディア・Wその人だった。
　冴来が会いたいと思っていた張本人だ。
「なんで……？　なんでここに……？　やだ、見ないで！　泣いてるとこなんて見られたくない……！」
　逃げようとする冴来の肩をクロウディアはしっかりと、しかし優しく引き寄せた。
「いやさ、俺、よくここに遊びに来るだけなんだけどな？　……何があった、花風姉？」
　冴来は思わず心境を吐露してしまう。
　クロウディアという存在は、彼女を素直にさせるだけの信頼を寄せることができる相手だ。
　クロウディアは一通り話を聞くと、ニィ……と悪戯っぽく口角を釣り上げた。
「そういうことか。おい、花風姉。今から俺とお前は共犯な？」
「へ？」
　言っている内容が理解出来ない冴来。
　だがクロクディアがすたたたーっと鍋まで走り寄ると、彼は高らかに大見得を切った！
「猫鳴館に肉だと！？　はっはっはっ！　唐突だが鬼ごっこの時間だぜ！」
　いきなりまだ切り分けていない肉の塊を掴むと、ラップに包んで手が汚れないようにする。
　それを小脇に抱えて彼はドヤ顔をした。
「この肉は預かった！　返してほしけりゃ、俺たちを捕まえてみろ！」
　クロウディアは冴来を指差して大声を張り上げた！
「俺たち、って、えぇー！！　私込み！？」
　冴来は涙の代わりに鼻血が出そうになるほどの衝撃を受けた。
　ぼやっとしていたら、クロウディアが肉を抱えてこちらへ駆けってくるではないか。
「ほら、逃げるぞ、花風姉！　道中、肉があったらそれも奪っちまおうぜ！　鬼ごっこスタートだー！」
「なんでそんな楽しそうに言えるのよー！！」
「「おいこら、待ちやがれェー！！」」
　血相を変えて追っかけてくる寮生＋αに、たまらず彼女も逃亡を開始。
　冴来、巻き込まれて共犯に仕立てられてしまった！