ミートダークファンタジー！｜リアクション

ミートダークファンタジー！

　如月は巨大な丼５つを大部屋のテーブルに置いた。
「至高の牛丼だ。先着４名限定で食べられるぞ……。１つは俺のだ。盗ったらブッころがして桜崎に吊るしてもらうぜ……」
　牛丼の取り合う光景を眺めながら、如月は一口頬張った。
「……美味ぇ……！」
　如月は泣いていた。あまりの美味さにほっぺではなく涙が落ちた。
　これに鶏舎でとれた貴重な卵を掛ければ、贅沢なハイパー牛丼が完成だ。
　その味は言わずもがな、号泣ものだった。
　それを視認した者たちが、一斉に牛丼へ群がる！
「おいおい、取り合いになると桜崎が――」
　言われる前に、桜崎は「奪い合うんじゃないよ！」とバットを振り回して威嚇。
　ペナルティと称して、ちゃっかり牛丼１つを没収していったのだった。
　残る３つは、綾辻綾花、黒兎都、真辺伸幸がゲット。
　握の介抱の甲斐あって復帰した綾辻は、奪い合った際に零れ出た丼の中身を必死に戻していた。
「世の中には３秒ルールっていうのがあるんです！」
　もはや３秒どころの状態ではないが、世間一般の女子のやることではないが、彼女もまた猫鳴館寮生たる精神の持ち主といえよう。
　黒兎が手に入れられたのは幸運である。
　持参した漬け肉で作った唐揚げを皿に運んで卓上に置いた際、真横に差し出されたのが牛丼だったのだ。
「おー、ラッキー♪　さっき食べた煮込みハンバーグも美味しかったし、ここに来て良かったの」
　黒いＧとかねずチューとかいて気味悪そうな場所だ、とさっきまでは思っていた彼女も、この賑やかな空気に触れて考えを改めたようだ。
　真辺はちょっと本気を出した。
　本来ほにゃっとした彼だが、牛丼の魅力に心奪われ、桜崎の目を掻い潜って見事入手に成功した！
「この喧騒で目が冴えたのは正解なのよー。海原先輩に後でお礼言わなきゃだねぇ。感謝感謝なのよー」
　牛丼に舌鼓を打ちつつ、食器の後片付けと配膳の手伝いもしようと真辺は思い立つ。

　調理班は愕然としていた。
　差し入れで集まった食材の多さにではない。
　その集まった食材の７割が、既に寮生の胃袋に収まっていることに戦慄を覚えた。
「どこまで食べるんだ、奴ら！？」
　李は追加注文の焼豚チャーハンに芝海老をぶち込みながら目を白黒させた。
「そろそろ、私たちも何か食べたいですね……」
　大和もローストビーフを切り分ける手も速度が落ちてきた。
　疲労困憊、空腹限界なのだ。
「うちも手伝うかぁ。ソーセージの類は焼くだけでいいし」
　黒兎も調理班と合流。持参した加工肉を焼き始めた。
「黒兎先輩が何か作るんなら……、俺ももう少し頑張ろうかね」
　如月は和食寄りのメニューを考え、手を動かしていく。
「折角だな、牛豚鶏、３種の肉の照り焼きを作ってみるか……」
「僕も何か作る……。あ、僕ね、お菓子作ってきたんだよ。デザートとしてみんなで食べてもらえたら嬉しいな」
　もももニコニコしながら調理を開始。
　どうやらミートパイを作るようだ。
「お菓子作りの応用だよ。美味しく出来るといいな」
　しかし、どんなに手を動かせど、一向に需要＞供給の図式が覆らない。
「こうなったら、アレだな」
　意を決した旅鴉は大部屋に向かって声を張り上げた。
「猫鳴館の諸君！　ラストは鍋だ。野外で焚き火の明かりだけを頼りに、ありったけの食材を煮込む。当然、まだ胃袋に余裕はあるな？」

「「うおおおおおお！！」」

「鍋なら誰でも具材を投入できるし、我々も好きなだけ箸をつつける。何より星空の下で食べる鍋なんて、粋ではないかな？」
　旅鴉の意見は、すぐさま採用され、再び舞台は野外へと移る。