メリーさんが座敷童、なの｜リアクション

メリーさんが座敷童、なの

　温泉で火照った身体を冷やす為なのか。浴衣に着替えた桜庭円が庭園に赴く。その途中で同様の浴衣に身を包んだユキ・ナカミチと出会った。
　円は笑みを見せる。
「さっきはどうも」
「また会ったね。あなたも涼みにきたのかな」
「そんなところですね」
　二人は笑みを交わし、揃って庭園に足を踏み入れた。ライトでぼんやりと浮き上がる道を一緒に歩く。
　ユキはうっとりと目を細めた。枝振りの良い白梅が可憐な花を付けていた。
「良い香りね」
　円は胸いっぱいに吸い込んだ。
　苔むした岩を見ながら歩いていくと、道沿いに木製のベンチがあった。年老いた女性が丸い背中で座っていた。一目でぴんときた円が声を掛ける。
「女将さんですか？」
「さようでございます」
　丁寧な口調で頭を下げる。
「お世話になってますー。素敵な旅館ですね」
「ありがとうございます」
　円の意見に同意するようにユキが頷く。そして別の一面も覗かせた。
「私も本当に良い旅館だと思いますよ。だから定期的に小さなお知らせをして、集客力を高めたり。あ、季節によってヨモギ湯にするとか、菖蒲湯もいいですよね。これからもたくさんの人の出会いの場となって欲しいなぁ」
「親身になっていただき、本当にありがとうございます。女将冥利に尽きます」
「なんか照れますね」
　まともに顔を合わせられなくなり、ユキはベンチの右端に腰掛けた。女将は円に空いていた左端を気遣って勧める。
　三人は一緒のベンチに座った。
　最初に円が口を開いた。
「期間限定みたいですけど、メリーさんの座敷童がツボでした。楽しい企画ですね」
「座敷童のメリー様には感謝の言葉では足りません。本当に有難いことです」
　円は横目で窺う。女将の表情に僅かな悲しみを見て取った。右端にいたユキが小難しい顔で口にした。
「少し気になったのですが、メリーさんをどうして座敷童と思ったのですか」
「はい、若い時分に旅行した先で似たような姿の童を見たことがございまして。あと……そうですね。あまり楽しい話ではありませんが、私の亡くなった子供に面影が似ていまして。思わず、メリー様を引き留めてしまいました」
「そう、でしたか」
　ユキは目を伏せた。円は膝の上に置いていた拳を軽く握る。
「ボクはこの旅館、好きですよ。人が温かくて気が休まるし。メリーさんも、そんな人達に引かれて来たと思うんですよね」
「そうですよ。本当に居心地の良い空間でいつまでもいたくなります。メリーさんにも伝わってますよ、きっと」
　二人の励ますような声に女将はしんみりとした声で、ありがとうございます、と礼を口にした。

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