メリーさんが座敷童、なの｜リアクション

メリーさんが座敷童、なの

「確かに好きにすればいいとは言ったが、この量はどうなんだ？」
　夜海霧楓は座卓に並んだ数々の料理に呆れた。皿同士が押し合う。乗せられなかった品々は上に積み上げられた。
「fewデスねー。もうー少し、たのもー、するヨ」
　トワ・E・ライトフェロゥが備え付けの電話の受話器を取った。楓がぶんどり、元に戻す。
「あほ姫、いい加減にしろ。こんな量を食べ切れる訳がねえだろ」
「sweetね！　カエデ、アマチュアよ！」
「あのな、非常識すぎるんだよ。それにメリーのこと、どれだけ知ってんだ？」
「メリー、トワのリボンあるヨ。生ＴＡＫＯ、FlyさせたDeath！　でー、メリーのhomeはー、ザシキワラシなら、ココがhomeデス？」
　トワは考え込むような表情になった。楓は軽く頭を左右に振る。
「初めて会った俺が知るかよ。それにしてもどうするんだ、こんなに頼んで。皿だらけじゃねえか」
「あー、足りないデス！」
「足りなくねえよ」
「メリーの食器、nothingヨ。もらってくるデス！　So、オカメに会ったら、何かわかるかもデスヨー」
「おかめは失礼だろ。女将だ」
「おー、カッコイイね。おおかみ、わおーんのWolfネ！」
　楓は畳に寝そべって、はいはい、と適当に相槌を打った。トワは笑顔で部屋を飛び出していった。
「ネコデンゴトゴトあおもりへーGO！」
　奇妙な歌声が部屋にまで聞こえてきた。やめてくれ、と楓は力尽きたように呟いた。
　トワと入れ替わるようにして女の子が現れた。楓は上体を起こして胡坐を掻いた。
「ごはんを食べにきたの」
「見ての通りだ。トワはいない。戻ってくるまでの間、少し話をしてもいいか」
「仕方がないの」
　女の子は座布団の上に正座した。楓は相手を観察するような目で見た。
「瞬間移動はいつからできた？」
「生まれ付きなの」
「やはり、神魂の類いではないのか」
　女の子は無表情で返した。
「少し警戒が薄れたの」
「ほんの少しな。お前さんのように普通じゃない奴を目にするってことは、俺やトワもそれに巻き込まれていることになるからな」
「その用心深さも普通ではないの」
　女の子の指摘に楓は苦笑いを浮かべた。過去を回想するような目で言葉を続ける。
「寝子島はマシな方だが、トワのような金髪や言語の違いが周囲との壁を作る」
「あたしは気にしないの」
「そのようだな」
「メリーさんと敵対するの？」
　女の子の瞳の黒さが増した。双眸は深淵を思わせる。
「メリーがトワの害にならないなら、敵対する意味はないだろ」
「それならいいの」
　女の子は何事もなかったように座っている。潤んだ瞳は座卓の料理に向けられた。物欲しそうな態度を見て楓は話を切り出した。
「夕飯に有り付きたいなら、迷子のトワをここに連れてきてくれ。見つけたらこのスマホで」
「連れてきたの。いただきますなの」
「ビュンって。Surprisedヨ！　カエデー、メリーとビュンって！」
　瞬間移動を体験したトワの興奮は収まらない。その横で女の子は黙々と箸を動かす。驚異の胃袋を見せ付けるのだった。
　その後、腹ごなしにトワと女の子は温泉に向かった。二人で湯船に浸かり、気ままに泳いだ。その様子を耳にした楓が男湯から怒鳴り付けた。しかし、何の効果もなかった。
　遊び足りない二人は部屋で枕投げに興じる。主に楓に向かって投げ付けた。最初は無視していたが限界を超えた。本人も混ざって三人の白熱した戦いへと発展した。
　部屋の明かりが早々と消された。トワは楓の用意した布団で、ぐっすりと眠っている。
「派手に暴れ過ぎだ」
　楓は隣の布団で呟いた。
「……メリー……何しに……ここに来た……デス？」
「遊びに来たんだろ」
　トワの寝言に楓は呆れたような顔で返した。

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