空想ラストバトル！？｜リアクション

空想ラストバトル！？

　したたかに打たれた手の痛みに顔を顰めながらも、イッセンの手はまだ剣を握っている。
　しかし、アオイ姫の加護を失った暗黒騎士には焦りが見えた。
　イッセンと相対する優木遥斗の目は、それを確かに見抜いている。
（先ほどまでと比べて、明らかに精彩を欠いているな。……今なら）
　ぐっと、一歩踏み込む遥斗。
　細かく動かしていた棍が、勢いに押されたイッセンの剣を弾き飛ばした。
「っ……！」
　イッセンの灰の眼差しが、一瞬だけ床を滑っていく剣を捉えて――すぐに、遥斗へと戻る。
　次の瞬間、遥斗の体は宙を舞い、じきに、背中から床へと落ちた。
「か、は……！」
　起き上がろうとすれば、腹部に目の眩むような痛みが走る。
　イッセンのもう一つの攻撃手段――《風の刃》が、遥斗の腹を抉っていた。
「優木！」
　イッセンの配下と化した卯木衛に床へと押し付けられている来島アカリが叫ぶが、動くことは叶わない。
　蔓薔薇の壁の向こう、椿美咲紀が一輪の薔薇をきゅっと握り締める。
「あの風、やっぱり厄介なのです……待ってください、すぐに回復を！」
　くるりくるりと舞うは、傷を元通りに治す癒しの舞い。
　美咲紀の頬に、冷たい汗が伝った。
　深い傷を塞ぐのには、相応の時間が掛かる。
（どうか……どうか、間に合って……！）
　舞いながら、懸命に祈る美咲紀。
（薔薇達よ、私に癒しの力を、皆に届ける手助けをしておくれ……！）
　遥斗がまだ動けずにいるその最中、
「……鼠共が」
　吐き捨てて、イッセンは遠く床を転がった己の剣を取りに歩を進めた。しかし。
「させない！」
　イッセンよりも早くに闇の剣を抱え上げたのは、恵御納夏朝。
　急ぎその場を離れようとする夏朝の背を、《風の刃》が容赦なく襲う。
　成す術なくその場に崩れ落ちながらも、夏朝は剣を胸に抱いたまま離さなかった。
「……しぶといな」
　冷えた目をして薄く笑み、イッセンは夏朝へと手のひらを向ける。
　再び《風の刃》が飛ばんとした、その瞬間。
　――ぶんっ！
　風を切る一撃が、イッセンを襲った。
　かろうじて直撃を免れたイッセンだったが、その顔には深い憎悪の色が乗っている。
「またお前か……」
　暗黒騎士の視線の先には、すらりと棍を構えた遥斗の姿があった。
　真っ直ぐにイッセンを見据えて、口を開く遥斗。
「何とか間に合ったな。相手なら、俺がしよう」
「邪魔ばかりを……！」
　ギリ、とイッセンが歯噛みをする。
（もう、あの魔法を食らうわけにはいかないな）
　内心にそう思いながら、遥斗は棍を構え直した。と、その時だ。
　イッセンの身体を、夏朝が後ろからぎゅうと抱き締めた。
　遥斗を癒し切り、今は息を切らせている美咲紀が叫ぶように言う。
「恵御納さん無茶なのです！　その怪我じゃ……！」
　背の深い傷はそのままに、けれど夏朝は、イッセンを捕えて離さない。
（一閃さんにも皆にも、本当に、本当に申し訳ないけど）
　今は冷たい目をしている『一閃』に、泣き濡れた目で戦場を見ている『あおい』。
　そして、ドームの中にいる全ての仲間のことを夏朝は想った。
　ブブ・ベルゼやこの戦いを見て嗤っている悪魔達に、皆がこれ以上傷つけられないように。
「――躊躇した攻撃じゃ駄目だ。一気に、やるしか……」
　ごめんなさい、と、夏朝の唇が動いた。
　夏朝を巻き込むまいと動けずにいた遥斗が、ハッとして声を上げる。
「恵御納、待て……」
「僕は……脳の全てまで爆発四散するルビーの塊だ！！」
　カッ！　と、辺りが瞬間、どこまでも眩く照らされた。
　そして一行の目が利くようになった時には――ドームのどこにも、夏朝の姿はなく。
　その代わりのように、赤の煌めきが、ちらちらと舞い落ちる。
　――挑戦者・恵御納夏朝、想像力熟成完了しました。
　機械音声めいた声が、辺りに虚しく響き渡った。
「恵御納……想像力を全て使って、自爆したのか……」
「敵に操られる身体も残さずに、なんて……」
　八神修が悔しげに呟き、鴻上彰尋が力なく眼差しを伏せる。
　夏朝の決死の一撃を背に食らったイッセンが、その場にがくりと膝をついた。
「……もう、終わりにしよう」
　遥斗の棍が、イッセンの首をぴたりと捉える。
　ビシ、と迷いなく振り下ろされた一撃が、暗黒騎士の意識を刈り取った。
「あ……」
　アカリが、顔だけを上げて呟く。
「光、だ……」
　ドームを構成する全てのステンドグラスが瞬き始め、やがて、目も開けていられないほどになった。
　何もかもが、鮮やかな緑色の光に包まれていく――。

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空想ラストバトル！？

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