猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲｜リアクション

猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲

● 覆って隠せ！

　夏朝のねこシールが空を切る。
　巨大ナメクジの皮膚に当たるも、ぬめりのせいか弾かれて落ちてしまう。
「僕のろっこんでナメクジの重さを軽くすれば、館の倒壊を遅らせることができるはず……飛ばして貼り付かないなら、屋根に上って直接貼るしかない……」
「これを使ってください」
　カッパ姿の綾花が、屋根に向かって梯子を立てかける。
「ブルーシートの準備もできましたよ」
　綾花が持っているブルーシートの片端には、輪っか状の紐が括ってある。
　それをナメクジの目玉に引っかかるようにして、頭からシートを掛けようというのだ。
「うわあ、みんな、ナメクジ君に何をするんだ！」
　屋根の上で鷹取洋二が喚いている。
「鷹取先輩、危ないから降りたほうがいいわ。なめくじ語がわかるわけじゃないのでしょ？」
　美野梨が説得に当たるも、洋二は頑なに首を振る。
「いやだ！　僕はナメクジ君の傍にいる！」
「仕方ないわね……」
　美野梨はため息をついた。
「とりあえずブルーシートを掛ける作業を始めましょう。それからナメクジを小さくして、屋根から下す。そのあとは、水がかからないところで作業できれば問題ないはず」
「了解。シールを貼る必要もあるし、僕が屋根に上るよ」
　夏朝が梯子に取りついた。綾花がそれに続く。
　そこに現れたのは、大量の塩とゴム手袋を買って駆けつけた新田亮だ。
「助太刀するぜ！」
　ゴム手袋をしっかりと嵌め、小脇に塩の袋を抱えると、亮は空気を限界まで吸い、
（――発動！）
　と脳内で唱える。
　ろっこん「鬼人の体（サード・フォース）」が発動し、身体能力が飛躍的に高まる。
　亮は跳びあがり、片手で屋根の縁に掴まった。そこから振り子のように体を振って、遠心力で一回転し、屋根の上へ着地する。
「ブルーシートをこっちに！」
　綾花からシートの端を受け取ると、亮は屋根を駆け、にょきりと伸びたナメクジのツノに輪を引っ掛けた。
「よし！」
　亮の合図に、屋根の上の夏朝と綾花、地上で待つ雅樹や美野梨に加え、ほかの寮生たちも手伝って、わあわあ歓声を上げながら、ブルーシートを広げてゆく。（ちなみにサキリはナメクジの天敵であるコウガイビルを探しに森へ出かけた）

　集めに集めたブルーシートは実に巨大であった。
　間も無く、ナメクジごと館を覆う青い天蓋が完成した。
「これなら、遠目から見られても修繕中だと思ってもらえる……かも」
　そう信じたい。いや、大丈夫なハズだ。猫鳴館はいつだってどこか壊れたり直したりしているのだから。
　明里が梯子を上って来て言った。
「雨よけはバッチリなの。転げ落ちてピギャーってならないようみんな気を付けるのよ」
「そうだね。ビニール紐を持ってきたから、腰に巻いて命綱にして」
　夏朝がビニール紐を手渡してゆく。
　命綱を付けると、まずは夏朝がブルーシートの内側に潜り込み、ナメクジにねこシールを貼り付けた。何度かの失敗ののち、一枚ずつ慎重にやれば、ぬめる皮膚の上にもシールを貼れることを発見する。勢いをつけずに、水面に花びらを浮かべるかの如くそっと置けばいいのだ。要領を得た夏朝はナメクジの皮膚に次々とシールを貼り、余った分をブルーシートにも貼ってゆく。
「よし。めいっぱい軽くなれ……！」
　夏朝のろっこん＜重く軽く＞のお陰で、屋根の軋み音が消えてきた。
　ナメクジの重さが軽くなっているのだ。

　ブルーシートの中から顔を出した夏朝が、人差し指と親指を輪にしてサインを出した。
　それを見て明里が号令をかける。
「準備オッケー！　それではいよいよ、『ナメクジさん小さくなあれ』大作戦なのー！！」