猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲｜リアクション

猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲

● ナメクジさんを地面に下せ！

　亮の努力と、洋二の塩まみれな熱い抱擁が功を奏し、ナメクジはアシカサイズにまで縮小してきた。
　美野梨と綾花と明里が、それぞれ、米ぬかやワラや家庭菜園の野菜など、ナメクジの気を引きそうなもの手にナメクジに近づいてゆく。
「家庭菜園と逆の方から下しましょう」と美野梨。
「夏朝さんが地面にもブルーシートを敷いてくれています」と綾花。
「はいはいーナメクジさん、こっちなのよー」と明里はナメクジの眼前でワラをひらひら。　

　そこに、ひゅっと現れたサキリ。
　ガラス容器に入った頭がトンカチみたいな形をしたミミズ状の生き物をずずいと差し出す。森の中で、岩をひっくり返したりして採取してきたコウガイビルである。
「これをナメクジの表面に付着させてみよう」
　サキリが無表情に蓋を開ける。
「やめて！　コウガイビルってナメクジ食べるやつじゃない！」
　塩とナメクジの表面のぬるぬるにまみれた洋二が、涙目でサキリに向かって両手を伸ばした。
「……」
　サキリは思わず瞬間移動で避けた。
　その途端、突如目標物を失った洋二は、屋根からごろりと転げ落ちた。
「あ～～～れ～～～～！」
　ナメクジがにゅっとツノを動かす。
　洋二が落ちた方へ向かって動き出す。
「いいわ。そちらの方向に下りてくれたら問題ない」
　美野梨たちが野菜や穀物の匂いも駆使してナメクジの進行を誘導する。
　ナメクジはゆっくりと屋根の端へ進み……ぐらり、と地面の方へ落ちた。
　明里が、心配そうに屋根の下を覗き込む。
「ナメクジさんも鷹取先輩も、生きてるのなの？？」
　
　――大丈夫であった。
　夏朝のろっこんのお陰で自重が軽くなっていたナメクジは、地面に敷いてあったブルーシートの上に、羽根のように……とまでは行かないがダメージ軽く着地していた。洋二も命綱のおかげで地面に激突することなく、ぶらんぶらんとぶら下がっている。
　巴がそれを見てゲラゲラ笑っていた。
　不憫に思った雅樹が、梯子を立てかけ、洋二を下した。

◇

「で、どうしようなの？」
　明里がみんなを見回す。
　仕事を終え、みなは大部屋に集まっていた。綾花が用意したタオルと温かいお茶が嬉しい。
　明里は通常サイズに戻ったナメクジ入りの蓋付きペールボックスをつつく。
「どうするかはコレのことをよく知ってる人に任せたいと思うの。あかり、かいじゅーの扱い方はよくわからないし、なめくじが何を食べるかなんてもっとわからないから！」
　瓢がハイハイと手を挙げる。
「元は地下帝国で飼っていた奴だからね、ウチで引き取りたいね。ナニ、同じ轍は踏まないさ」
　すると、塩まみれでナメクジの脇に横たわる洋二が、細い声を上げる。
「いやだ、僕が飼いたい……」
　瓢は虫けらでも見るような目で洋二を見た。
「巨大化するナメクジなんて弩級の面倒事、一人で背負い込めるのかい？」
「それは……」
「地下帝国に置いときなって」
　赤い舌をちろちろさせて嗤う瓢。
　別案、とばかりにサキリがまたコウガイビル入り瓶を差し出す。
「この瓶の中に入れるというのは……」
「ぴぎゃー！　それは可哀想なの！」
　明里が慌ててサキリを止める。
「鷹取先輩に返すのがいいと思います」と綾花が言った。
　美野梨もそれに賛同したが、続けて瓢の説を推した。
「でも……やっぱり飼育場所は地下帝国がいいかしらね」
「そうとも」と瓢も鷹揚に頷く。
「鷹取先輩のペットで構わん。飼育場所を提供するよ。地下なら目立たないし、湿度とかの環境もいいだろうしねぇ。会いたくなればいつでも来たらいいさ」
　それは悪くない案に思えた。
　洋二はゆっくりと頷く。

　――これにて、猫鳴館巨大ナメクジ騒動は、一件落着と相成ったのである。

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