猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲｜リアクション

猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲

● 『ナメクジさん小さくなあれ』大作戦

　大作戦とは言ったものの、その作業は実に地味なものであった。ゴム手袋を嵌め、塩やら、サキリが入手した石灰やら、綾花が本に変えて持ち込んだ粉類を只管ナメクジの皮膚に塗り込む。塗り込む。塗り込む。
「ああ……このネバネバは手袋越しにも伝わるんだな。できれば知りたくもなかったけど」
　亮の顔にはすっかり縦線が入ってしまっている。
「ぴぎゃー！」
　と悲鳴を上げる明里も同様だ。
　背筋を駆け抜けるゾクゾク感と戦いながら、亮はこの作業に耐えるべく思いを巡らせた。
（そうだ、せめてナメクジを俺が好きな物だと思い込もう。例えば……そう甘い食べ物だ！）
　この感触は……餅？　いや……団子！　それも御手洗団子だ。
　見た目は確かに、砂糖醤油の葛餡の、あの茶色に似ているといえば似ている。
（御手洗団子を素手で触ってると思えば……ってそんな状況あり得るか！！）
　自分のボケに自分でツッコむ亮。気は――あんまり紛れていない。
「う、う、う……これ、どれくらいやればいいんだ……？」
「屋根から下せるくらいまでよ。新田くん頑張って」
　美野梨に応援され、「お、おう」とやる気を復活させる亮である。

「ああっ。ナメクジ君が小さくなっていくっ」
　ナメクジに縋りつき嘆く洋二の頭を、巴がスパコーンとスリッパで殴った。
「あんたどっちの味方なんだい」
「猫鳴館が壊れるのも困るが、ナメクジ君も愛おしいんだー！」
「そうかい、そうかい。そんならあたしも遠慮しないよ。――綾花！　こいつを元に戻しとくれ」
　巴が洋二の頭上に掲げたのは『塩』と書かれた一冊の本。
　綾花がろっこんを解くや否や、本は元の塩に戻り、洋二のワカメ頭に振りかかる！
　濡れた髪に塩をどっぷり浴びた洋二の姿は、塩ワカメそのもの。
　何を隠そう、巴は、洋二の塩ワカメ化を狙っていたのだ！　非道い！
「ぎゃ！　何を！」
「カッカッカ！　そんなに奴が好きならハグでもしてやったらどうだい！」
　巴が何を言おうとも、塩ワカメ――もとい、洋二はのたうち回るばかり。
「目が、目があああ！！」
　塩が沁みてナメクジどころではなくなってしまったのだ！
　だがここで、巴の＜カイシンの一喝＞！
「その愛が本物なら必ず通じる！　つべこべ言わずにとっと抱き着きな！」
　突如、巴の言うことは尤もだ、という気になった洋二は、よろよろとナメクジに張り付いた。
　巴は追い打ちを掛けるように、洋二のケツを後ろから蹴り上げる。
「もっと激しく！　情熱的にだよ！」
「あ、あ、ああッ……！」

　やばい、ちょっとＳＭっぽくなってきた。すこし時間を早送りしよう。

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