その日はしとしとと絹のような細い雨が降っていた。
ときは期末テストが終わって数日後。時刻は夕刻――授業が終わって帰ってきた生徒もあれば、部活や委員会活動で学校に残っている生徒もいるような時刻。すっかり気が緩んでだらけモードの猫鳴館に、突如、
綾辻 綾花の焦り声が響く。
「警戒警報! 警戒警報! 猫鳴館の皆さんっ! 大変です!
大至急、建物の外に退避してください!!!」
ミシミシ……ッ。
綾花の声に被るようにして、古びた館の軋む音。
猫鳴館の住人達は何事かと館の外に飛び出して来る。
冷たい雨に打たれながら、住人たちは見た。
猫鳴館の屋根に絡みつく、スライムを彷彿とさせる黄土色の巨大な物体を。
お腹の側はひだ状で淡いクリーム色。背中の側はつるりとして筋を描くように黒の斑点が浮いている。
テラテラとヌメる表皮が、さざ波のように細かく震える。
そいつは屋根の上でぐぐぐ、と身をもたげると、二本のつのを天へ突き出す。
「な、なんだあれ……!?」
「ナ、ナメクジ……!?」
巨大ナメクジは、春の雨を全身で受けている。
ミシミシミシと、館が叫び声をあげるかのように軋んだ。
鷹取 洋二が濡れたワカメ頭を振り乱しながら「ナメクジが逃げた!」と喚いている。
ナメクジは先ほどより一回り大きくなっているように見えた。
もしや、雨の水分を吸収して、身体を大きくしているのだろうか。
「あれはまさか」
桜崎 巴は、
骨削 瓢の腕をつかんで耳打ちする。
「いつぞや
地下帝国から逃がしちまった巨大神魂ナメクジかい?」
「かもしれんねェ。いやはや元気でいたとはね」
嬉しいのか、困ったのか、よく分からない状況だ。何しろ館は倒壊寸前。このままナメクジが巨大化し続ければ、真夜中には猫鳴館はぺっちゃんこ。瓦礫と化してしまうだろう。
雨がしとどに降っている。
幾人かが棒や傘を投げつけてみたが、物理的攻撃はほとんど効き目がないようだ。
このままでは埒が明かない。
(ナメクジ……もしかして
あのときの……?)
綾花は大掃除のときのことを思い出し、首筋を撫でる。
「大変です……なんとかしなきゃ……!」
こんにちは。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地行(おいち あん)です。
綾辻 綾花さん、桜崎 巴さん、骨削 瓢さん、ガイドへのご登場ありがとうございます。
●これまでのあらすじ
このシナリオは、先日の大掃除(※シナリオ「猫鳴館、笑うべからず黒猫の狂嵐」)で、鷹取 洋二が一匹のナメクジを見つけたことに端を発しています。彼はそのナメクジを自室で飼っていましたが、逃げられたようです。
しかもそのナメクジの正体は、梅雨の頃、桜崎さんや骨削さんたちが地下帝国からうっかり逃がしてしまった巨大ナメクジ(※シナリオ「振りかけろ、塩!」(小西 秀昭マスター))のなれの果てであったのでした。
【現状】
巨大ナメクジが、猫鳴館(旧館)の屋根の上に陣取っています。
現在の大きさは全長8メートルほどですが、雨の水分を吸って、ぐんぐん大きくなっています。
ナメクジ自身は特に何をする様子でもありませんが、
放っておけば、ナメクジの重さで猫鳴館は倒壊してしまうでしょう。
現在、猫鳴館の中に入るのは大変危険です。
寝子高まで山道を走って数分なので、学校から何か持ってきたり、誰かを連れてきたりは可能です。
猫鳴館は寝子高の北側の森の中(F-8)にあり、木立に隠れて見えにくいですが、
ナメクジが巨大になってきたら、森からはみ出て学校や街から見えてしまう可能性もあります。
【巨大ナメクジ】
見た目は、通常のナメクジを大きくした感じです。数は1匹。
物理的攻撃はほとんどうけつけません。
塩など粉類を振りかけると、浸透圧で縮みます。が、猫鳴館も塩や粉だらけになることに注意。
雨など水分を得ると、巨大化します。現在、雨が降っているので徐々に巨大化中。
穀物のにおいが好きらしい。
家庭菜園の緑の葉物野菜も好物。
好き嫌いはありますが、気に入れば案外なんでも食べ、肉やコンクリートも食べます。
屋根をカリカリしはじめたら猫鳴館を食べ始めたサイン。気を付けよう。
※月日を経て進化したのか「振りかけろ、塩!」のときと若干違う性質があります。
【おもな登場NPC】
鷹取 洋二………ナメクジを愛してしまったようです。
屋根に上ってナメクジの説得に当たっています。
北風 貴子………風紀委員の委員会活動中でしたが、猫鳴館の不穏な動きに勘づいて様子を窺っています。
桜栄 あずさ……猫鳴館には特に思い入れもないですが、
ボロいしそろそろ建て替えて正式な寮にする方がいいんじゃない? とか考えてます。
現在職員会議中。あと1時間ほどで終わって桜栄邸に帰る予定。
ナメクジが巨大になった場合、学校や桜栄邸から見える可能性があるので、
騒動に気づかれないように注意。
【アクション】
いずれか1つをえらび、番号をアクション冒頭にお書きください。
【1】巨大ナメクジをなんとかする
【2】フツウを守る(北風、桜栄理事長や他の生徒などに気づかれないように立ち回る)
【3】その他(風紀委員として北風といっしょに猫鳴館生の様子を探る、などご自由に)
・猫鳴館生である
・たまたま学校に残っていた寝子高生
・偶然騒動に気づいたor連絡を貰った
など、参加動機はなんでもOK! たくさんのご参加をお待ちしています。