猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲｜リアクション

猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲

● プロローグ

　３月の放課後。
　新聞部に所属する八神修は、春の匂いのする細い雨と若芽色に萌えはじめた九夜山を撮影しようと、カメラを手に寝子島高校の屋上にいた。
　手始めに海の方角を撮り、それから星ヶ丘の方角を撮り、振り返って九夜山の方角にレンズを向け、
「ん？」
　木立の間がざわめいているのに気づき、修は怪訝な顔になる。
「あのあたりは猫鳴館のはずだが」
　ファインダーを覗き込み、光学ズームで拡大する。
「コレはマズイ……」
　修は携帯で猫鳴館の友人である伊賀解理と鈴野加代に立て続けに連絡する。

◇

　シーサイドタウン。
　雨に負けずにランニングしている新田亮の携帯が鳴る。
　メールの着信音だ。亮は近くのコンビニの軒下に入り、携帯を開く。
　差出人は猫鳴館の友人から。
（急になんだ？）
　メールを開くと、ＳＯＳの文面と共に一枚の写真が添付されていて――。
「な、なんだこれ……！　き……気持ち悪い！！」
　虫が苦手な亮は思わず顔を顰める。
（でも神魂絡みとなれば無視できないよな……はぁ）

◇

　猫鳴館の外は、警報を聞き飛び出してきた寮生で溢れていた。
「ぴ、ぴぎゃー！　かいじゅー！！」
　自治会長の橘明里が右往左往している。
　修がファインダー越しに見たもの。亮の携帯に送られてきた添付写真。
　それと同じもの――屋根の上でうねる巨大な軟体生物――を、学校から帰ってきた北里雅樹も、自らの眼に収めることとなった。
「ナメクジ、だと……！？」
　怪獣映画のようなそれは、間違うことなきナメクジだ。
　しかもそいつは、春の雨に打たれて、徐々に大きくなりつつあるではないか。
「生きとったんかワレ！！」
　雨の中、紫色の甚平の裾を翻して歓喜の舞を舞う骨削瓢を尻目に、ほとんどの猫館生たちは戸惑いとどよめきを隠せずにいる。
　雅樹は、冗談じゃないっての……と悪態をつく。
「ここ追い出されたら実家に帰るしかないだろ！」
　苦々しく眉根を寄せて思うのは、木天蓼大学法学部の教授で刑法学者の、やたら堅物で口うるさい父のこと。高校を出たら島の外の大学に行くつもりだが、もしも猫鳴館がなくなったら、あの最高に折り合いの悪い親父と高校卒業までの残り１年、同居を余儀なくされてしまう。
（それは絶対に勘弁だ！）
　鎌首をもたげるように天に向かって体を伸ばすナメクジを、あらためて振り仰ぐ。
「お前に恨みがあるわけじゃないが、このままでは猫鳴館終了だ。それは困るんだ、とっても！」
　そうとなったら行動あるのみ。雅樹は身を翻すと物置へ走った。

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