猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲｜リアクション

猫鳴館、退避命令！？　～巨大ナメクジの逆襲

● 慎重に行動せよ！

　猫鳴館の外では、サキリと夏朝、雅樹が見つけてきたブルーシートを繋ぎ合わせる作業が進んでいる。
「防水用のダクトテープで張り合わせるんだ」
　作業を仕切るのは２年生の雅樹だ。
「北里先輩、確認お願いします！」
　後輩に呼ばれて、雅樹はつなぎ合わせたブルーシートの中に入り、隙間がないか確認する。ナメクジをシートで覆っても、隙間から水が入ったら意味がない。眼鏡をかけて＜精密視力（マイクロ・アイズ）＞を発動させ、顕微鏡レベルの精密な視力を得ることができる力で、ブルーシートのつなぎ目を凝視する。
「ここ、まだ穴がある。ダクトテープ取って」
　目張りをし、また確認。雅樹は巨大なブルーシートを完璧なものに仕上げてゆく。

◇

　一方そのころ学校では――。

「ややや、いいんちょ。こんなところでお会いできるなんて奇遇ですね」
　伊賀解理は、キリキリと目尻を上げて、早足に廊下を歩いていた北風貴子と遭遇していた。
「伊賀さん。丁度いいところに。猫鳴館で何か起こっているの？」
　解理が猫鳴館住まいだと知っている貴子は、いきなり本題をぶつけてくる。
　解理は先ほど届いた異変情報を思い出し、吐きかけた溜息を呑みこんだ。
　解理の元には猫鳴館の仲間からも八神修からも、「いつぞやの巨大ナメクジがまた出たらしい」という連絡が入っている。
（そういえば地下帝国から逃げたとかなんとか言ってたけど、まさかまた現れるとは……）
「ねえ、どうなの？　何かトラブルが起こっているなら見に行かなきゃ」
　貴子に詰め寄られ、解理は内心、冷汗たらたら。
　見に行くというのはマズイ。
　猫鳴寮へ対するイメージをこれ以上下げたくないし、なにより生真面目な彼女が、巨大ナメクジを直視して、平静を保てるとは思えない。
（となれば、僕がいいんちょを止めなければ）
　そのためには寮から意識を逸らそうとしたら却って怪しまれる、と解理は思った。
　ここは自然体で行くのが得策だ。先輩が寮を気にしてるならあえて話に乗ろう。
　平静を装い、しれっと答える。
「ご足労には及びません。猫鳴寮は色んな人材が集まってるからいつも無駄に不穏ですよ」
「だから気になるんじゃない！」
　だから、か。耳が痛い。だが、解理もここで引くわけにはいかない。
「じゃあ僕が連絡して様子を聞いてみます。きっとたいしたことはないですよ。それより――」
　解理は貴子の腕を取って、甘え気味に身を寄せた。
「実は、期末テストの結果があまりよろしくなかったので、先輩に教えてもらいたんですが……」
「い、いいけど……」
「やった！　卒業前に少しでも一緒にいたいと思ってたからすごく嬉しいな」
「そ、そう？」
　後輩に慕われて、貴子もまんざらじゃない様子だ。
「じゃあ場所を変えましょう、先輩」
　解理は貴子と腕を組んで歩き出す。
（いいんちょに嘘をつくのはちょっと心苦しいが、トラウマ作るよりはずっとマシだろう――）

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