ほしゅうじゅぎょう　が　あらわれた！｜リアクション

ほしゅうじゅぎょう　が　あらわれた！

■御剣刀のフシギな補習授業
　スタイリッシュアクションに定評のある御剣刀。
　誰をも置き去りにした超高速の世界を駆け抜ける彼にも弱点というものある。
　たとえばか弱い女性であったり。
　たとえばやけに苦い食べ物であったり。
　たとえば学校の先生であったりだ。
「しまった、計算では出席日数も足りていたはずだが……」
　出席日数不足ゆえ、刀には補習授業が課せられていた。
　フシギな事件にあれやこれやと関わっているうちにどこかしら計算が狂っていたらしい。
　いや、本当ならこんなギリギリな出席日数にしたくはないのだ。好きで休んだわけじゃあない。好きで落としたわけじゃあないのだ。
　だが補習授業という救済措置をもってして、自らを救えるという。
「そうだ。進まなければ救えないというのなら……突き進むまでだ！」
　なんかピンチになったラノベの主人公みたいなことを言って、刀は光さす町へと駆けだしたのだった。

　これから急な戦いが始まるような出だしだが、例に漏れず刀の戦いは今日も続く。
　それも、誘惑との戦いだ。
『……えますか……きこえますか……』
「ん、なんだ？」
　学校への道を走る刀の耳に、というか心に聞こえるものがあった。
『あなたの心に直接語りかけています。いくのです、公園へ行くのです……』
「異世界の勇者を召喚するノリで何を言い出すかと思えば」
　やれやれと首を振って、刀は声を振り払った。
「俺は補習授業に行くんだ。出席日数の足りない俺のために時間をさいて問題集まで作ってくれる先生たちにのためにも、そして何より俺自身のためにな」
『あの子が来てますよ』
「くっ……！」
　あちこちでフラグを踏んでいく刀にとっての、ちょっと気になる女子。
　名前はいろんな都合で今は出さないが、彼女の顔が脳裏に浮かんだ。
『あとあの子も』
「くう……！」
　さらにはなんだか放っておけない女子の顔も浮かんできた。
　刀の数少ない弱点である。
　勢いよく進んでいた足が、今やぴたりと止まって動かない。
　どころか引き返そうとしている始末だ。
『そうです。思い出を増やし、楽しい一日をすごすのです……』
「いやまて」
　自らの足を握って押さえ、刀は首を振った。
「仮に、仮に遊びに行ったとしてだ。俺はどうなる？　もういちど高校一年生を続け、あいつらを先輩って呼ばなきゃならないんだぞ！？　無理だ、無理だろうそれは！」
『きにすることはありません。それもそれでいいじゃありませんか』
「ごまかすな！　俺の進級がかかってるんだぞ！」
　刀は全身に力を漲らせた。
「そうだ。進まなければ救えないというのなら……突き進むまでだ！」
　またラノベの主人公みたいなことを言って走り出す刀。
　彼がなんとか進級を認めて貰うまでの、ほんの一日のお話である。

このページにイラストを設定する