ほしゅうじゅぎょう　が　あらわれた！｜リアクション

ほしゅうじゅぎょう　が　あらわれた！

■橘勇の補習授業
　青年、橘勇はバイト戦士である。
　日夜カフェで働きその熱心さから定着する客も多く彼なりに強い遣り甲斐と使命感をもってコーヒーを注ぐ日々である。
　とはいえ彼も１６歳。学びが仕事の高校生だ。
　アルバイトに集中するあまり『熱のない風邪』を引き続け、いよいよ出席日数が足りなくなってきた次第である。
「うまく調節したつもりだったんだがなあ……まさかテストでつまづくとは」
　先生がはちまき巻いて補習授業用のテストを配るさなか、勇はまぶたの裏に過去を思い描いた。
　これなら赤点をギリギリを超えるぞと張った山が盛大に外れ、とても胸にくる点数がテスト用紙に刻まれていたあの日の光景である。
　補習授業の間はバイトを休まざるをえないぞ。そんな風に思った彼は不真面目なのか真面目なのか。将来仕事に悩まされるタチである。
　とはいえ、補習授業さえ乗り切れば留年は免れるというのだ。
　つい最近まで中学生だったクラスメイトに『先輩』と呼ばれてしまう悲劇は回避できるはず。
「よし、やろう。やるしかないぞ……！」
　ぱちんと自らの頬を叩き、配られた問題集をひっくりかえした。

　イメージ映像である。
　２９９と刻まれた黄金の鎧を身に纏い、勇者タチバナは魔王城へと乗り込んだ。
　いざゆかんと剣を抜くや、巨大な魔物が地面を割って現われる。
「スーガクか。強敵だな……だが俺は負けない。みんな（穴の空いたシフト）の所に帰るためにも！」
　うおーと叫んで飛びかかる。魔物は口を開き、沢山の数式による呪文を唱え始めた。
　古来より数式は魔方に通じるといわれ、いくつかの魔方陣にもその影響がえーっとなんのはなしだっけそう魔物の呪文である。呪文を浴びせられた勇者タチバナはたちまち目の前がくらくらになった。
「しまった！　眠りの呪文だ！」
　意識を保て。ここで倒れたらおしまいだぞ。
　首を振って前を見る。
　『次の魔物こちら』『最後尾はココ』と書かれたプレートを持って、魔物の群れが並んでいた。
　あ、これダメかもしれない。
「眠気になんか、絶対に負けない……！」
　戦え勇者タチバナ！　シフトの平和はきみにかかっている……！

「……はっ、夢か！」
　尚、その後何度か先生にバシンとやられながらも、勇はなんとか補習授業を乗り切り進級を許されたという。

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