ほしゅうじゅぎょう　が　あらわれた！｜リアクション

ほしゅうじゅぎょう　が　あらわれた！

■鬼崎あやめのフシギな補習授業
「なんで私がこんなめに！　日頃の行ないはいいはずなのにぃー！」
　あやめが通学をを半泣きでダッシュしていた。
　こうなるまでの経緯を、ぜひ巻き戻してご覧頂きたい。

　お布団から目覚め、開けたカーテンの逆光にシルエットを浮かべる美少女がただいま話題のあやめちゃんである。
　銀色の長い髪を寝間着に垂らしたさまを可能ならあと三十分くらい流していたいところだがこの世界には尺というものがあってだね、悪いが次のシーンへ行かせて貰おう。
　けど折角だからどこの次元から収録したのかわかんない本人による回想式ナレーションを加えていこう。
『私、鬼崎あやめ。花の高校一年生。定食屋おにざきの看板娘って言われてます。最近テストで大変な点数をとっちゃったり、そのせいで変た……コホン、ご主人様に調教もとい特別授業を受けたりで忠誠のあかしがついに禁忌の第三段階に突入したりでわたしもーどーなっちゃうのー』
　終盤明らかに手を抜いたらしいあやめは、髪を整え制服に着替え、学校用の鞄を持って玄関を飛び出した。
　そう、今日は補習授業。出席日数やら単位やらが足りない生徒のためにあれやこれやを補完して進級させるという日本が誇る（？）学生救済措置である。
　日頃いろんなゴタゴタに巻き込まれて濃密な学生生活をおくるあやめにとって、学校に通うのもテストでまともな点数をとるのも人並み以上に苦労するのだ。苦労するのだと思って欲しい。
　そう思った上でつい最近の期末テストの顛末をご覧頂きたい。
　『すみませんすみません私はフジコ先生の犬です』のあたりを特に。
「うん、うん……あれはその、変た――大変だったけど、この補習授業さえ乗り切れば『あやめお姉ちゃん（同学年）』とか言われなくてすむのよ。がんばれわたし……」
　俯き気味にガッツポーズを繰り返すあやめ。
　ただでさえお勉強が好きじゃあないのに、休みの日にまで学校に呼び出されているのだ。テンションを少しでも上げないと回れ右してしまう。
　今だってお家に帰って寝転がりつつポテチとか食べたら幸せだろうなって思ってるし。
『補習なんか出ないで男あさり、しよ？』
　とか思ってる……し……？
「うん？」
　ぴたりと足を止める。
　自分の肩越しに影人間が現われ、耳元に囁きかけているではないか。
『それで、フジコ先生にお仕置きされよ？　好きなんでしょ？　犬なんだよね？』
「ち、ちがうちがうっ！　あんなの二度とごめんよ！」
　あやめは（一瞬いいかもしんないと思ったけど）影を腕でぶんぶんやって振り切り、学校へとダッシュした。
「絶対神魂がらみでしょ！　っていうか、どうして私？　なんで私がこんなめに！　日頃の行ないはいいはずなのにぃー！」
　学校めざして突っ走るあやめ。
　――必死の抵抗が実り進級が認められるのは、この数日後のことである。