ほしゅうじゅぎょう　が　あらわれた！｜リアクション

ほしゅうじゅぎょう　が　あらわれた！

■朝鳥さゆるの補習授業
　窓の外を見えない鳥が飛んでいる。
　薄曇りの空と、ガスヒーターが熱風を吐く音と、かすれるように混じるカーボンの摩擦音。
　さゆるは視界に入るあれやこれやを無視して、意識のすべてを窓の外に預けていた。
　休日の空き教室。若干名の『似て非なる者たち』と時間を共にする。
　その名も立派な補習授業。
　気分次第で学校を休み続けた末の一日である。
　見ず知らずの人間と不安定な場所へ赴くことを気張らしとすら考えるさゆるにとって、多少見たことのある生徒たちとの共有はどこか苦痛ですらあった。
　指の上でペンが回る。
　補習授業というのは教育課程における救済措置であり、大体の学校における安全装置だ。
　学校を派手に休んだり平気でテストを白紙提出するような個性豊かな子供たちを、厳しく定められたカリキュラムへはめ込むことはむしろよろしくないと考えるのもまた、自然なことかもしれない。
　教師も何十日という授業日数をたった一日で取り返すのは容易でないとみているようで、数枚の問題集をすべて正解するまで埋めていくという詰め込み式の授業がなされていた。勿論質問可。教科書を開いてもＯＫだ。
　当のさゆるはといえば、教科書も開かずにすらすらと問題集を埋めていく。
　埋めては飽きたようにほおづえをつき、暫く気分を紛らわせてからまたすらすらと解いていく。問題を解くことというより、この空間になじむことに苦労している節すらあった。
「…………」
　かわった生徒の多い寝子高といえど、さゆるのようなタイプはかなり珍しいようで、ともすれば学校の現場に綺麗なマネキンでも置いているような違和感を放っていた。
　そのうえ手には生々しい包帯が巻かれるとなれば、事由を問うのもはばかられようというものだ。
「……あたしって、頭の悪い女」
　今更こんなことをしてなんになる。さゆるはため息のように呟いて、幾度めかの気晴らしを終えた。
　日が暮れた教室に残って問題集に向き合うなんてことは、きっと彼女にとって滑稽すぎるだろうから。

　この後無事に進級を認められるが、彼女にとってもはやどうでもよいことだったのかもしれない。

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