迷子の少年とボヤ騒ぎ｜リアクション

迷子の少年とボヤ騒ぎ

　　　５

「犯人は下山中、と」
　ねこったーで放火犯の情報を確認したロベルト・エメリヤノフは、考えた末に登山道入り口で待つことにした。
　ボヤ騒ぎを知った武道からは、この犯人がもれいびではなく、別の世界の人間かもしれない、との情報がもたらされた。
　リリーと光――琥珀――のことは初耳だった。まさかと思うが、ろっこんともれいびの存在そのものが普通では考えられないのだから、ありえないことではない。
　――とまあ、そんなことを考えてはいたのだが、果たして犯人が、ピンポイントでここに現れるかは分からない。
　ちらほら行き来する観光客――もしくは寝子島の住民――をぼんやり眺めていると、あっという間に夕方になった。
　どうやら犯人は他へ向かったらしい。そろそろ帰るか、と座っていた縁石から腰を上げたとき、がさがさっという音と共に、何か飛び出してきた。
「おおっ」
　ロベルトは目を瞠った。
　自分より真っ赤な髪、よく焼けた肌、意志の強そうな瞳と眉――彼もロベルトに気が付き、立ち止まった。身長も同じぐらいだろうか。なかなかの美少年である。
「へ、え」
　少年は上から下まで、ロベルトの姿を舐めるように見ると、
「俺と同じ髪の奴、初めて見た」
と言った。いい声だとロベルトは思った。彼はにっこりと微笑んで見せた。
「やあ。僕はロベルト。ロベルト・エメリヤノフ。あなたの名前は？」
「俺は柘榴（ざくろ）だ」
　存外素直に、少年は答えた。
「変わった名前だね……でも、よく似合ってる」
　柘榴と名乗った少年は、驚いたようだった。
「名前を褒められたのは初めてだ」
「そうかな。いい名前だと思ったんだけど。ところで、今暇？」
「んー、用事があるんで、暇とは言い難い」
「用事って？」
「人探し。俺、ここ初めてでさあ、わけ分かんねえんだもん。ここ、どこだよ？」
「寝子島。の九夜山。の、麓」
「どこだ、それ」
　柘榴は顔をしかめた。本当に知らないらしい。ふと、武道のメールにあったリリーのことを思い出した。
「もしよかったら、島を案内するよ。海とかどう？」
「海って、どっちだ？」
　ロベルトの指さした方角に顔を向け、柘榴は舌打ちした。
「あっちじゃねえな。反対側がいい」
「どうして？」
「こっちに俺の探し人がいるような気がするんだ」
　その時、ロープウェイが到着し、ぞろぞろと客が下りてきた。柘榴がリリーと同じく他の世界の人間で、ボヤ騒ぎの犯人なら、大勢の人に何かするかもしれないと思い、ロベルトは僅かに緊張した。
「……おもしれーな、これ」
と、柘榴は言った。
「これ？　ロープウェイ？」
「この箱が動くやつ。こういう無機物は好きだ」
　男の子っぽいな、とロベルトは思った。電車やバスも好きかもしれない。
「それなら、一緒に街に行く？　そういうの、他にもあるし」
「ホントか？　そうだな、探すついでなら、怒られねえだろうし」
「怒るって、誰が？」
「俺の仲間。大将探すまで、寄り道するなって散々――」
「いた！！」
　二人の会話を断ち切ったのは、切奈だった。遥斗とロープウェイで降りてきたのだ。
「って、赤い髪、二人いるのですよ！？」
「落ち着け。一人はうちの制服だから、もう一人の方だ」
　遥斗が冷静に言った。「本当にそうか、確認は必要だが」
　竹刀袋を握り締め、遥斗は尋ねた。
「上で、火をつけたのはあんたか？」
「そうだけど？」
　柘榴はあっさりと答え、傍のロベルトは目を真ん丸にした。

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