迷子の少年とボヤ騒ぎ｜リアクション

迷子の少年とボヤ騒ぎ

　　　４

　時間は、期末試験が終わった直後に戻る。
「憂鬱なテストも終わったのですよ～。さあ、村雨も一緒に帰るのですよ～。そしてまた九夜山でサバイバルなのですよ～」
　小刀祢切奈は、うーんと背伸びをし、学校を出た。彼女は日々、九夜山で食材を調達している。
　さすがに試験中は出来なかったが、当然、食料が底を尽きかけていた。そんなわけで飼い猫の村雨と共に九夜山へ向かったのだが、そこで聞き捨てならない話を耳にしたのだった。
「火事！？」
　展望台の近くで、煙が上った、というのだ。幸い、係員がすぐに消し止めたが、その際に赤毛の少年が逃げていくのを目撃したという。
　いや、逃げるというより、
「悠然と立ち去る、って感じだったなあ」
とその係員は言った。
「最近の若者は自然への敬意が全くないのですよ～。山火事になったらどう責任を取るのですか～」
　何より、火事になったら自分がサバイバルできないという大きな問題があるが、それは口にしないでおく。
「もれいびが関わっていなけりゃいいんだがな……」
　観光客に混じり、火の消えた跡を見つめながら優木遥斗は呟いた。彼はネットで事件を知り、竹刀片手にやってきた。最近の彼は、寝子島で事件が起きると誰かのろっこんが関わっているのでは、と思うようになっていた。
　もしそうなら、どうにか止めなければ、と遥斗は途中で買ってきた肉まんの袋に手を突っ込んだ。――ところで、視線に気づく。
　切奈が、遥斗の手を凝視していた。
「……何か？」
　遥斗はあまり、女性の相手が得意ではない。知らず、何か失礼なことをしただろうかと彼は尋ねた。
「――ハッ！」
　我に返った切奈は、口の端に垂れた涎を手の甲で拭い、
「い、いやいや、何でもないですよ、はい、何でも～」
と目を逸らすと、白衣にポケットに突っ込んである干し肉を、指先で弄った。
「そうか。もしかして、あんたも放火犯を探しているのか？」
「その通りなのです～。お説教しなくちゃいけません～」
「そうか。俺もそのつもりだ」
　苦手ではあるが、目的が同じである以上、別々で行動するのもおかしい。また、合理的ではないと判断した遥斗は、一緒に行動することを提案した。
「む……」
　再び切奈の視線が、遥斗の手に注がれる。――いや、
「食うか？」
　ようやく、己の手ではなく袋を見ているのだと気づき、遥斗は肉まんを差し出した。
「い、いいのですか～？」
「ああ。多めに買ってあるから」
「ありがとうなのです～」
　受け取った肉まんの熱さに目を白黒させながら、切奈は齧りついた。
「犯人は赤毛の美少年、ということだが、――美少年って、どんなんだ？」
「見れば分かるんじゃないですか～？」
「そんなもんか？」
「そんなものだと思いますよ～」
　気になるのは、その美少年が何も持っていなかったという点だ。やはり、もれいびである可能性が高い。
　聞き込みしたところでは、その美少年は展望台前駅の方へ向かったという。ロープウェイに乗ったか、或いは徒歩か。後者なら追いつけるかもしれない、と二人も後を追うことにした。

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