【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス｜リアクション

【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス

　一先ずは空鯨の危機は去った。しかし、２の島への最短ルートは空鯨から逃れるべく使用を断念することとなる。
　そんな中でも、穏やかじゃないねぇとうんと一つ伸びをした壬生由貴奈は何処か眠たげ。
　彼女が訪れた６階層は海は海でも雲海と呼ぶに相応しかった。飛行艇を駆り、城を目指した冒険の世界――そんな世界に居るだけで何処か嬉しくて。
「船の上、のどかな天気……うーん、ぴえぴえじゃなくても眠くなっちゃうねぇ」
　ピエロットが使っているふかふかのクッションに顔を埋めてうつらうつらとする由貴奈。
「眠いよねぇ……」と同意を返すピエロットもまたうつらうつらと眠たげにクッションを触っている。
　巨大な羊を思わせるクッションを挟んで眠たげな二人は、束の間の安穏を楽しむ様に暖かな日を浴びていた。
　――浴びてはいたが、まだ、危険は沢山だ。
「はっ、いけないいけない。うたた寝しちゃった」
　ぴえぴえ、と起こす由貴奈にピエロットはむうと小さく唸る。
　昼寝仲間は今ばかりは、冒険に集中するべきだと進言してきた。
（……もうちょっと眠っていたいなあ……）
　朝、学校へ行くのを渋る様にクッションに顔を埋め更なる眠りを欲するピエロットに由貴奈は「ダメだよぉ」と彼をとんとんと叩いた。
　由貴奈が用意したのは『かいぶつ』対策のクッキー。
　三階層の溶岩洞で作成した焦熱小麦は星の力を用いた攻撃の威力を高める効果がある。
　由貴奈の目論見であるクッキーの材料には打ってつけだ。そして、同じ場所で作成した鷹の胡椒は神経を研ぎ澄ませる。シューターとしては必須の能力を強化するお役立ちアイテムだ。
　その２種と雲海に自生していた足軽小麦を混ぜ合わせればジャンプ力を大きく向上させることも可能だ。
　１の島で梢が作物情報を得た通り、この階層にも特別な食物が群生している。
　アルゴーの上には流石に存在していないが島や海をくまなく探せば様々な食物や材料と出会う可能性だってあった。
「それ、おやつ？」
「これ、作ったんだぁ。試してみようかぁ」
　クッキーで強化できるから。その言葉と共にクッキーを頬張った由貴奈はネックレスを胸元で揺らしゆっくりと『かいぶつ』へと向き直る。
　狩人は紫の光を宿し、弓を射る力をより強く得ることが出来た。それを更に強化するアイテムとしてのクッキー。
「見ててねぇ」
　のんびりとアルゴーの船上から放った矢は、遠くアルゴーを見据え近づく『かいぶつ』の頭へと見事、的中する。
　唸りをあげ海の中へと落ちる其れを追い立てて、「海に潜られても届いたりするのかなー？」と彼女は瞬いた。
　クッキーにしたおかげでろっこんも使用できる。それを利用すれば、更なる攻撃の手段だって得られるはずだ。

「……しっかし、この怪物はなんでこの船を襲うんだろうねぇ」
　首を傾いだ由貴奈の疑問に修は悩まし気に呻った。
　アルゴー自体に求愛行動としてかいぶつたちが近寄ってきているという可能性だって考えられる。何らかの事情で『理性的な会話』が出来ないのではないか――その為には仲間同士での結託が必要だと彼は立ち上がった。
　魔力が蔓を模して巻き付いた片手杖を手にした椿美咲紀は普段と変わらぬ制服姿でアルゴーの動向を見守っている。
「シュー君がかいぶつに声を届けたいなら協力しますよー」
　なぜ、アルゴーが襲われるのか――それを解明するならと美咲紀は修へと微笑みかける。
　言葉が通じないのであれば、ピエロットの力を利用し白昼夢の形で何らかの影響が与えられるのではないか。
　修の提案に首を傾げるピエロットは由貴奈と顔を見合わせた。
「一度、試してみませんか？」
　かいぶつの動きなら自分が封じると美咲紀は胸を張る。今こそ、力を使用するときだと白い外套を身に纏った彼女はしっかりと杖を握りしめた。