【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス｜リアクション

【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス

　吹く風が心地よい。交易船『アルゴー』は白波の上を進んでゆく。
　可愛くて和むなあと頬を緩ませた瑠樹は、サンマさんに和むピエロットの隣でアルゴーを護らねばと立ち上がる。
　もこもことした羊を思わせるローブが風にはためき、星の力で作り上げた『空飛ぶ羊』に彼は飛び乗る。
「羊さんだねえ」
　和やかに言うピエロットに「えへへ」と笑み溢した彼は、愛らしくもこもことした白羊で空を駆る。
　跳ね上がったかいぶつはトビウオに似ているが――凶刃を向く。
「いけぇ！」
　びしりと指させば、その体躯を巨大なかいぶつへとぶつけた。
　鈍い音と共に衝動が瑠樹の身体へと伝わってくる。「わ、」と声を漏らし、慌てて羊の背をぎゅっと握りしめれば、眼前には淡い虹。
「わぁ！　ピエロットさん、虹だよぉ」
「わあ～、綺麗なんだなあ」
　金のふわりとした髪を潮風に遊ばせていたピエロットは瑠樹の声に嬉しそうに目を細める。
　続き、そのままかいぶつを倒すぞと意気込んだ彼を追いかける様にアルゴーは進み続ける。
　羅針盤の指し示す先を追いかけて、商人たちの言う危険な海域へと船は進み行ったのだった――……。

　脳裏で反芻するのは島の人々との話。
　ネッシーに乗り、豪と共にアルゴーの傍らを行くみつびは「がんばろうね、豪くん」と微笑んだ。

　――――私達はよそ者だけどみーんなの為になればいいなって思ってる。

　そう、商人たちに向けて宣言したのは、何も嘘ではない。瞬く彼らにほんとよ、と念を押したみつびはネッシーに豪と共に乗りながら楽し気に手を振った。

　――――信じてもらえるよう努力して、それを積み重ねていくよ。未来で一緒に笑おうね。

　流浪の冒険者たちに、商人たちがどう思ったのかは分からない。只、この先が良くなる様にと豪と共に走り出すみつびは止まらない。

　みつびと豪がネッシーで、瑠樹が羊で移動する中で、アルゴーでやる気と勇気を得たロベルトはピエロットから空イルカを与えられ海を駆った。
　銃から発射されたつむじ風。緑の魔力はイルカたちが動きやすいように風を制御する。
　乗るには多少のコツが必要だが、海風を幾度も打ち調整することが出来たことで流れに乗ることが出来ている。
「その調子だ」
　大きく頷きながら海図を確認する八神修はピエロットの（正直言えば、ピエロットが余り危険地帯を把握していない事に驚くのだが）アドバイスを乞うていた。
　周囲の支援を受けながらものんびりと進むアルゴーは１の島から２の島に向けて進行中だ。
　双眼鏡で見つめながら、近くにいるであろう空鯨が『襲い来る』可能性を捨てきれないと修はテルミツ唐辛子の袋を確認した。
　――どうしてか、唐辛子が大活躍する冒険である。近くには謎の調合をした爆弾持ちも存在しているのだから。
「ピエロット、海の生物には言葉は？」
「んんー……通じる子はああやって、一緒に泳いでくれるけどかいぶつさんはー、どうかなあ」
　空イルカのように、意思疎通が出来れば共に泳いでくことはできるが、空鯨たち『かいぶつ』と呼ばれる相手には理性的な対応は難しいのだとピエロットは言った。
　アルゴーに到着時にいきなり邂逅する事となった巨大なクジラの存在をメモしていた水上桜は瞬き、クロスボウを確認する。
（……空イルカの乗り方を確認しておいた方がいいわね）
　しっかり者で負けず嫌いな桜にとって、ピエロットは頼りない。最初の一撃で巨大な生物たちを撃退することは叶わない為に、牽制射撃を行わなければと再度の邂逅を彼女は静かに待って居た。