【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス｜リアクション

【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス

「これは……」

　洞窟の入口へと辿り着けば、そこにあったのは『かいぶつ』と呼ぶには余りに不思議な姿だった。
　今まで目にしていたのは普通の動物を模っていたが、それに被さる様に黒い影が動物たちにはまとわりついている。
（影そのもの？　それとも……影に乗っ取られた生き物……？）
　警戒する夏朝が探したのは異世界への入り口だった。
　どこかしかに存在していれば、何か掴める可能性もある――しかし、この場所にはヒントとなるようなものは存在しない。
　勘を頼りに花のもとへ向かわんと歩き出す夏朝の視界には無数の影が認められる。
　ピエロット達にとって良いことになれば、と願う夏朝は右手首のギミックに内蔵した手甲で影の攻撃を受け止めながらじりじりと進んでいく。
「よければ、これ」
　ここから、闘いは苛烈になるだろうと彰尋は洞窟内にいた夏朝へと金剛オレンジを手渡した。
　前線で戦う事となるのはその前を進む刀や轟も同じだ。
　薬草も準備していたと用意周到の彰尋はゆっくりと現れ始める影に対して準備を整える様に息をついた。
「もう少しで黄金の花……黄金さん？　に出会えるんだ」
　女性が一人で此処に居るのは寂しいとピエロットに告げた言葉。
　魔導書を淡く光らせる彼はこの奥で一人で咲くのを待っている黄金の花を想い癒しを紡いだ。
　彰尋の背後から走ってきたアカリと衛コンビも共に戦うと影を叩き続ける。
　その戦闘の最中、奥まった場所から輝きの光が漏れ出した。

「これが、黄金の花……！」

　ひょこりと顔を出した月詠は瞳を輝かせる。
　炸裂芋を投げながら「私、非力だからな！」とドヤ顔をしていた月詠は嬉しいという様に飛び出した。
「確かに光ってるな……」
　思わず息を飲んだ彰尋の両眼にはその光は眩しいものに思えた。
　壁にマークを描き、迷わないルートを辿っていた彼女は罠があれば罠を封印すると荒業を使用して強盗（たのしみ）を行っていた。
（……花の精霊みたいなものなんだな）
　遠目に見えるのは花が咲いた瞬間。手のひらサイズの少女が生まれる様に花開き、黄金の光をともす。
「花を確保……って簡単には行かないか」
　轟の声に、刀はゆっくりと頷いた。
　黄金の花を目前にしてそこに立っていたのはやはり、巨大な怪物であった。
　向き合えば、影は澱み熊を模している。巨大な熊は人間に恐怖心を与える――それでも、竦み撤退をするわけには行かないと刀は小さく息を吐いた。
「いくぞ」
　一声、その合図とともに地面を踏みしめる刀。後方でヒーラーを買って出た彰尋は手厚く前線を支援する。
　熊の腕とぶつかった一撃に刃が押し返される。バランスを崩しかけた刀の隙間からひょこりと顔を出した夏朝が輪を勢いよく投げ入れた。
「余所見はいけないな？」
　からからと笑った月詠の手には炸裂芋。
　その破裂の向こう――一気に跳ね上がった衛が一撃を浴びせた。
「アカリくん！」
　今だよ、と声を張った衛の背後から、ゆっくりと顔上げたアカリの杖がきらりと煌めいた。
　氷の鋭さに歩みを止めた熊の脳天へと何よりも早く、刀はその一撃を喰らわせた。

　怯え、竦んだようにも見えた花の前にゆっくりと轟はしゃがみ、視線を合わす。
「大丈夫か！」
　その言葉にほっとしたように声を震わせて、「うん」と花は小さく答えた。
「初めまして……えみな・かーさ、です」
　君のお名前は、と問い掛けたそれに首傾げた花は曖昧に、只、曖昧に頷いた。
「お姫様、お迎えに上がりました」
　気取って話してみたと笑って手を伸ばした刀に黄金の花は様々な感情を混ぜ込んだような表情をして。
「まっていたわ、おうじさま」と舌足らずに微笑んだ。

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