中学生の期末テストのあれやこれや＜物語編＞｜リアクション

中学生の期末テストのあれやこれや＜物語編＞

【４】テスト結果返却後

　三年三組の教室で水上桜はイスに座った状態で固まっていた。机の上には組み合わせた両手が乗っている。相当な力が入っているのか。指先は赤くなっていた。よくよく見ると頭が微かに震えている。
　――私は寝子高の普通科に合格した。極度の緊張から解放された。でも、天国の状態は長く続かなかった。入学準備の忙しさは、私の想像を超えていた。
　少しの興奮が呼吸を速くする。目が後悔の色を滲ませた。
　――そのせいで中学生、最後の期末試験の存在を忘れていたのよ！
　心の中で叫んだ。数分後には惨憺たるテストの結果が無慈悲に伝えられる。
　まるで走馬灯のように過去の出来事が桜の頭の中で再生された。

　期末テストの一週間前、桜はのんびりとした状態で担任の川村絵美子のホームルームを受けていた。話の内容はいつも通りで特に気に留めるところはなかった。
　しかし、最後の言葉は聞き逃すことが出来ない。桜は大きく目を見開いて驚きの声を上げた。
「え、期末試験！？　そんなの聞いてないよっ！」
「期末にテストはセットでしょ。まさかとは思うけど、目を開けて寝ていたわけじゃないよね？」
　教室に笑いが起こる。その中、桜は頭を抱えて机に倒れ込んだ。
　ホームルームが終わると、桜は放心状態になった。頭の中の切り替えを失敗したかのように虚ろな目で座っていた。
　家に帰っても状態は同じであった。だらだらと時間を過ごした。頭の片隅ではわかっていても身体が従わない。
「やらないと」
　桜は編み物を始めた。無心で編み込み、そうじゃない、と怒って投げ捨てた。

　悪夢のような回想を終えた。頭が深く沈む。絶望的な状況に自身を嗤った。
　――あんな状態でまともにテストを受けられるはずがない。記憶が飛んでいる。寝子高の入試の記憶もほとんどないけど、こっちはもっと深刻で、かなりボロボロな気がする。
　教室のドアが開いた。桜は全身を瞬間的に震わせる。顔を上げると担任の絵美子が軽い足取りで入ってきた。手にはテストの結果を持っている。
　桜は思わず、頭を下げた。絵美子の明るい口調は何の慰めにもならない。身体を固くして拒絶する姿勢を見せた。
　一人目の名前が呼ばれた。頭の中に強引に声が割り込んでくる。
　――私の名前もいつかは呼ばれる。
　ボロボロなのに、見るのも嫌なのに。
　次々と名前が呼ばれ、その時を迎えた。
「水上桜さん」
　桜は、はい、と掠れた声でふらりと立ち上がる。少し左右に揺れながら教卓に向かった。視線を下げた状態で立ち止まる。絵美子は点数がわかる状態で差し出した。
「ぼんやりしてた割には良い点が取れてるよ」
「はい？」
　受け取った物をまじまじと見る。全教科、それなりの点数を取っていた。
　絵美子はおかしそうに笑って小声で言った。
「今日は皆がいるから紙パックのジュースはないけどね」
　その言葉に救われた。
　桜ははにかみながらも、はい、と答えてしっかりした足取りで席に戻った。改めて受け取った点数と向き合う。
　――パニくらなかったら、もう少し、点数は取れたかもしれない。
　表情を引き締めて前を向いた。
　――私もプレッシャーに強くなります。先生みたいに高校受験の翌日までバンドの追っかけが出来るように、なれるかはわからないけど。
　桜は最後に、くすりと笑った。