【星幽塔】第十一階層　極圏のハレーション｜リアクション

【星幽塔】第十一階層　極圏のハレーション

「その恰好に、何か意味があるのか！」

「特に意味はない！」
　ポーズを取りつつ、応える轟。
「スノーアダプテーションは、普段と何が違うんだ」
「ちょっと防寒具が入って、あったかくなっているんだ！」激しい雪崩に、轟は真向かいで踏ん張る。
「アダプテーションって、そもそも何なんだ」

　奇怪な唸り声が響く。
　いよいよ、敵の襲来が近い。
　飛翔するのはアリス、リリエル、それに天馬に騎乗した悠月。
　氷竜に乗った美咲紀と修は、思うところあってか急上昇。高度をみるみる上げる。
　グロッグも飛龍に飛び乗り、やや高度を保ちつつ旋回。

　……同時に、一人の男が戦線を離脱する。

「それじゃなッ！」
　まっしぐらに雪原を滑り降りるのはゲース。
　最後の騎士と自称したわりに、あっさりと敵に背を見せた。
　盾を倒して縄を結わえて、即席のスノボ。槍がストックがわり。
　雪を盛大に巻き上げて、あっという間に見えなくなっていく。
　あまりにも予想外の行動。一同はあっけにとられる。
　一体、真意はどこにある。火事場泥棒でもするつもりか……？

　唯一、ゲースの真意に気づいたのは、同じ策を持っていた男。

「ハイヨー、オブシディアン！　ちょっと疲れたかい？」
　愛馬を気遣うのは、ウエスタン風の伊達男、鎌八まもる。
　美貌を馬の顔に寄せる。
　精強をもってなる西部の馬。氷原であれ、険しい崖であれ臆することはない。
　だが慣れないルート、すこし消耗している様子であった。

（「大変、村にはまだ人がいるんです！」）

　ステラの一報を聞いて、顔を青くしていたほしびと。
「リリエルちゃん……だったかな」
　その言葉を聞きつつ、彼の脳裏にひらめくものがあった。
「第一目標……神威の救出。何にせよ、王さん――いや、女王様が取られたら負けだから」
　街に先回りし、アステリズムを救出する。
　その際に被害を軽減できる策が見いだせれば、なお良し。
　冷静で、状況判断に長け、時には思い切った策も辞さない彼らしいアイデアだった。
「最悪、すべてのルートが踏破されたとしても、神威が無事なら振り出しだ」
　まだ、ワンチャンありってところである。
「オブシディアン、雪道でくだりだが……急げるか？」
　馬の顔を覗き込むまもる。
　焦燥が激しい。
　すこしでも急ぎたいが、これ以上負担を強いるのは酷。

　考えあぐねていると、直上から何かが滑り降りてきた。
「絶好調！　真冬の俺！」
「ソリか！」慌てて駆け寄るまもる。
「金髪の旦那、それ、早そうだな！」
　まもるの姿を見て、ゲースはストックを駆使して減速。
「クールだしイケてるよ！　ちょっと同乗してもいいかい？」
　槍を振って、ゲースは応じる。
「じゃ、オブシディアン、下で合流だ。
　足、滑らせるなよ？」
　鼻先に親愛のキスをして、まもるは鞍に立ち上がって、ひらりと宙がえりする。

「スパイダースパイダー！」