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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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回向亭茶話 ～今なら不良坊主も同席につき。
上下 左右がそのお店を見つけたのは全く偶然のなせるものだった。
道を横切った猫に視線を取られ、初めてそこに小さな通りがあることに気付いた少女は、杖を片手に、その小柄な身体で路地へと入り込んでゆく。
ほんの少し、奥に入った頃合いだろうか。先ほど道を横切った猫が、だらしなく寝そべっている姿を見つけ、しゃがみこんだ。
「猫が、ねこんでいますわね――」
ぽつり、とつぶやいた少女。その視線の近くに置かれた看板に気付き、つい、と視線を上に向け、初めてそこが喫茶店なのだと、気づく。
回向亭。
喫茶店にしては、随分古風な名前ですのね。そう心の中で思うも、そのアンバランスさが興味を引き、扉に手をかけさせていた。
「ごめんくださいなー」
礼儀正しくかけた一声に重なるように、ドアベルが軽やかな音を響かせた。
興味津々、といった風情でキョロキョロしながらお店の中に入った上下。「いらっしゃい」と声をかけてきた初老のマスターに促されるままに、カウンタースツールに腰を下ろした。
「いい雰囲気のお店ですわね、私気に入っちゃいましたわ」
内装も穏やかにまとめられていて、漂う珈琲の香りと、落ち着いた風情の店主。坊主頭という点だけはこうした店のイメージにそぐわない気がするものの、不思議とこの店には溶け込んでいるように感じる。
「ご注文は？」
「珈琲……といいたいところだけど、紅茶の方が呑みたい気分ですの。お願いできますかしら？」
本当は苦いのが今一つなので、とりあえずの敬遠、というのが大きな理由なのはおくびにもださず、清楚な風情を漂わせて注文をした彼女のことを、マスターがしばし見つめてくる。
「どうか、いたしまして？」
いえ、と言葉をにごした店主が、「アイスが本日はお勧めですよ」と続けてきたので、それで構わないと、肯いて示す。
そうして待つこと１分程――供されたのは、コップの中で完全に凍ってしまった紅茶であった。
「これ、は――」
第三者が見たら、あるいはふざけたものを供されたことに怒り、絶句しているのかと考えたかもしれない。
しかしながら、さにあらず。
「紅茶が……凍っちゃってますわ……こうちゃがこおっちゃ……」
絶句したのではなかった。
プルプルと口の端を震わせながら、俯き、笑いを我慢して必死に淑女の仮面をかぶり続けようという努力をしていた上下であった。
それでも、どうしても、漏れてしまう笑い声。
次第にはっきりとした笑声となり、ややの後、落ち着いてきた上下が、少しだけ眦を潤ませて、店主に向き直った。
「一瞥で私の弱点を見破るなんて、マスターさん……なかなかやりますわね……。それに、フツウのお茶も、美味しいですわ」
いつの間にか、差し出されていた凍った紅茶はなくなっており、同じグラスに入った、フツウのアイスレモンティで、乾いた喉を潤していく。
そうして一息をつき、上下は再び笑みを浮かべて、追加注文をする。
「マスターさんマスターさん、次はコーヒーをお願いしますわ！」
「かしこまりました」
にっこりと笑って応じる店主。もちろん、先ほどの例があったので、上下にしても、ちょっと警戒をしての注文である。
「あ、普通ですわ……」
だが、案に反して普通のコーヒーが差し出されてきたので、逆の意味で少しの驚きと失望が、言葉として紡がれた。それでも、である。
何かあるのかも、しれない。
多分ないのだろう、というところが気持ちの大半となってしまってはいたので、口に含んだ瞬間、その無味に、驚いた。
珈琲に本来あるべき味が、まったくないのだ。
頭に「？」を浮かべながら手中の珈琲を眺める上下。そんな彼女に、店主がふふ、と笑いかける。
「味が濃くないでしょう？ 日本産の豆を使った珈琲ですからね」
二、三度瞳を瞬かせ、そして、また上下は口を噛んで、下を向いた。
「国内の、珈琲は……味が濃くな……い」
痛烈なボディブローをくらい、ノックダウン寸前となってしまった上下。彼女は手の中の珈琲を小さく揺らしながら、おなかを抑えて笑いをこらえるのであった。
「夢のような時間でしたわ」
お会計をすませ、出ていこうとする上下。だがふとたちどまって、店主の方に向き直る。
「どうして、私の弱点が、わかりましたの？」
親父ギャグへの耐性ほぼゼロ。そんな弱点を何故初対面で知りえたのだろうか。
真正面から聞かれるとは思っていなかったのかもしれない。
店主は数秒黙り込んだあと、ふたたびにやり、と笑いを浮かべて答えるのだった。
「猫に教えてもらいましたので」
道を横切った猫に視線を取られ、初めてそこに小さな通りがあることに気付いた少女は、杖を片手に、その小柄な身体で路地へと入り込んでゆく。
ほんの少し、奥に入った頃合いだろうか。先ほど道を横切った猫が、だらしなく寝そべっている姿を見つけ、しゃがみこんだ。
「猫が、ねこんでいますわね――」
ぽつり、とつぶやいた少女。その視線の近くに置かれた看板に気付き、つい、と視線を上に向け、初めてそこが喫茶店なのだと、気づく。
回向亭。
喫茶店にしては、随分古風な名前ですのね。そう心の中で思うも、そのアンバランスさが興味を引き、扉に手をかけさせていた。
「ごめんくださいなー」
礼儀正しくかけた一声に重なるように、ドアベルが軽やかな音を響かせた。
興味津々、といった風情でキョロキョロしながらお店の中に入った上下。「いらっしゃい」と声をかけてきた初老のマスターに促されるままに、カウンタースツールに腰を下ろした。
「いい雰囲気のお店ですわね、私気に入っちゃいましたわ」
内装も穏やかにまとめられていて、漂う珈琲の香りと、落ち着いた風情の店主。坊主頭という点だけはこうした店のイメージにそぐわない気がするものの、不思議とこの店には溶け込んでいるように感じる。
「ご注文は？」
「珈琲……といいたいところだけど、紅茶の方が呑みたい気分ですの。お願いできますかしら？」
本当は苦いのが今一つなので、とりあえずの敬遠、というのが大きな理由なのはおくびにもださず、清楚な風情を漂わせて注文をした彼女のことを、マスターがしばし見つめてくる。
「どうか、いたしまして？」
いえ、と言葉をにごした店主が、「アイスが本日はお勧めですよ」と続けてきたので、それで構わないと、肯いて示す。
そうして待つこと１分程――供されたのは、コップの中で完全に凍ってしまった紅茶であった。
「これ、は――」
第三者が見たら、あるいはふざけたものを供されたことに怒り、絶句しているのかと考えたかもしれない。
しかしながら、さにあらず。
「紅茶が……凍っちゃってますわ……こうちゃがこおっちゃ……」
絶句したのではなかった。
プルプルと口の端を震わせながら、俯き、笑いを我慢して必死に淑女の仮面をかぶり続けようという努力をしていた上下であった。
それでも、どうしても、漏れてしまう笑い声。
次第にはっきりとした笑声となり、ややの後、落ち着いてきた上下が、少しだけ眦を潤ませて、店主に向き直った。
「一瞥で私の弱点を見破るなんて、マスターさん……なかなかやりますわね……。それに、フツウのお茶も、美味しいですわ」
いつの間にか、差し出されていた凍った紅茶はなくなっており、同じグラスに入った、フツウのアイスレモンティで、乾いた喉を潤していく。
そうして一息をつき、上下は再び笑みを浮かべて、追加注文をする。
「マスターさんマスターさん、次はコーヒーをお願いしますわ！」
「かしこまりました」
にっこりと笑って応じる店主。もちろん、先ほどの例があったので、上下にしても、ちょっと警戒をしての注文である。
「あ、普通ですわ……」
だが、案に反して普通のコーヒーが差し出されてきたので、逆の意味で少しの驚きと失望が、言葉として紡がれた。それでも、である。
何かあるのかも、しれない。
多分ないのだろう、というところが気持ちの大半となってしまってはいたので、口に含んだ瞬間、その無味に、驚いた。
珈琲に本来あるべき味が、まったくないのだ。
頭に「？」を浮かべながら手中の珈琲を眺める上下。そんな彼女に、店主がふふ、と笑いかける。
「味が濃くないでしょう？ 日本産の豆を使った珈琲ですからね」
二、三度瞳を瞬かせ、そして、また上下は口を噛んで、下を向いた。
「国内の、珈琲は……味が濃くな……い」
痛烈なボディブローをくらい、ノックダウン寸前となってしまった上下。彼女は手の中の珈琲を小さく揺らしながら、おなかを抑えて笑いをこらえるのであった。
「夢のような時間でしたわ」
お会計をすませ、出ていこうとする上下。だがふとたちどまって、店主の方に向き直る。
「どうして、私の弱点が、わかりましたの？」
親父ギャグへの耐性ほぼゼロ。そんな弱点を何故初対面で知りえたのだろうか。
真正面から聞かれるとは思っていなかったのかもしれない。
店主は数秒黙り込んだあと、ふたたびにやり、と笑いを浮かべて答えるのだった。
「猫に教えてもらいましたので」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2017年01月08日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年01月15日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2017年01月15日 11時00分
