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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
回向亭茶話 ～今なら不良坊主も同席につき。
誰かに、呼ばれた気がした。けど、ぬくもりが恋しくて抜けられない。
――また、誰かに呼ばれた気がした。
起きねばならないのだろうか……。
渥美 ニナが目を覚ましたのは、広く、見慣れない部屋。
誰かの部屋ですかね……？ そう思いかけて、ふと気づく。あぁ、これは、そうだ。「私たちの部屋」なのだ、と。
整えられた高級そうな家具や、調度品。それに、優しい座り心地のベッドが、やけに馴染んで感じられる。
きょろきょろと部屋を見渡せば、少し離れたところには、黄金に縁どられた緑色の布地のソファの背が見える。バロック調のそれは、しっとりと艶めく布地と柔らかな光沢のフレームが部屋の雰囲気に調和している。
不意に、ドアの向こうからまた誰かの声が聞こえる。
「ニナ！ どこですか？ おけいこのお時間ですよー！」
「今、行きます！」
聞いたこともないはずの言葉が頭の中で聞きなれた言葉に変換されたような気がしたのと同時に、ソファの向こう側で自分にそっくりの女の子が起きだすのが見えた。
そうして――ぐるり、と世界が回る。
ドアの向こうから響く、マーサの声に少女――ニナはうんざりとでもいうかのようにため息をつく。
ピアノのおけいこだと呼びにきた家庭教師の声は、いつも変わらぬ金切り声。あんまり響かせると頭痛がひどくなるとわかっていたから、ニナは比較的素直に、けれどしぶしぶと座り慣れたソファから腰を上げた。
「刺繍の方がまだ好きなんですけどね……」
最も、ピアノが大好きかと言われればそんなことはない。それより――少女はまた小さくため息をついて扉の外へと足を踏み出した。
毎週三回ずつ、ピアノと刺繍のおけいこごと。時々あるダンスは楽しいけれど、東洋の生け花には閉口してしまう。
「わびさびって、どうにもわからないんですよね……」
ピアノの教師にいつも通りに指導を受けて、手をくたくたにして部屋へ戻ると、ニナはまたソファにごろっと寝転がって、お気に入りの本を手に取った。
静かな、気だるい午後をそうしてやりすごし、夕食の時間には階下の広間に赴いて、給仕を受けつつ、一人だけの夕食の時間を過ごす。
父母は、と聞けば片や仕事、片や夜会に出向いているという。「そう」と無感動に応じたニナは、己のためだけに供された食事を静かに平らげた。
お風呂に入り、部屋へと戻る。のそのそとベッドにもぐりこんで、お気に入りのクマのぬいぐるみを抱いて、いつものように眠りにおちようと、努力し始めた。
でも、その日はいつも通りじゃないのだと、なんとなく気づいていた。
だからだろう。普段は気にもしなくなっている、ベッド脇の窓が気になって、身体を起こし、壁に相対し膝立ちになる。そうすると、窓からのぞく光景が目に入ってくるのだ。
眼下には厳重な門と壁に囲まれた、大きな庭。
暗闇に沈んでいる庭の向こうに広がるのは、雑駁な灯りに溢れた市街地。
平穏に囲まれた生活は、大変に穏やかで、ほどほどに退屈で――あまり自由ではないようで。
「でも、もっと、身体を動かしたいと思いません？」
こっそり計画を練って家出でもしてやろうかしら？
「――なんて、お転婆だと叱られてしまうのかしら。ねぇ、「私の中のどなたか」さん？」
窓ガラスに映る自姿に向けて、ニナはくすり、と笑ってみせた。
そっと窓に顔を近づけるニナ――ガラスに反射した鏡像の瞳の中に、いつものニナが、いた。
「おや、おかえりなさい」
いつのまにか扉の前に立っていたニナに対して、四十がらみの店主が笑う。
「――見たいものは、見れたかね？」
「うーん……まぁ、『もしも』を見てはみたけどいまいち実感がわかないというか」
ぽりぽりと後頭部をかいたニナは、促されるままにカウンターのスツールに腰を下ろす。
赤ん坊のころから境遇が違えば、育つ人間性も違うだろうし――そうであってのifの中で育ったとして、はたしてあれは『私』と言えるんだろうか、なんて思いが浮かんでしまう。
「私がこうして寝子島で育った以上、私の家族はやっぱり、渥美家の父と母ですしね」
そうでなければ今の仕事にも就かなかっただろうし。
そうひとりごちるニナに、店主がそっとハーブティーを差し出してくれる。カモミールの爽やかな香りが、夢見心地の気分を覚ますにはちょうどよい。――夢の世界に誘う香りでもあるのかもしれないが。
「でも、双子の……妹かぁ。……もしもそんな子が、本当に存在するとしたら、ちょっと会ってみたいかもしれませんねー」
なんて、ね。
くす、と笑って茶器を手に取るニナは、世界は不思議に満ちていますからねー、と軽い口調で呟いて、暖かなお茶に口づけるのだった。
――また、誰かに呼ばれた気がした。
起きねばならないのだろうか……。
渥美 ニナが目を覚ましたのは、広く、見慣れない部屋。
誰かの部屋ですかね……？ そう思いかけて、ふと気づく。あぁ、これは、そうだ。「私たちの部屋」なのだ、と。
整えられた高級そうな家具や、調度品。それに、優しい座り心地のベッドが、やけに馴染んで感じられる。
きょろきょろと部屋を見渡せば、少し離れたところには、黄金に縁どられた緑色の布地のソファの背が見える。バロック調のそれは、しっとりと艶めく布地と柔らかな光沢のフレームが部屋の雰囲気に調和している。
不意に、ドアの向こうからまた誰かの声が聞こえる。
「ニナ！ どこですか？ おけいこのお時間ですよー！」
「今、行きます！」
聞いたこともないはずの言葉が頭の中で聞きなれた言葉に変換されたような気がしたのと同時に、ソファの向こう側で自分にそっくりの女の子が起きだすのが見えた。
そうして――ぐるり、と世界が回る。
ドアの向こうから響く、マーサの声に少女――ニナはうんざりとでもいうかのようにため息をつく。
ピアノのおけいこだと呼びにきた家庭教師の声は、いつも変わらぬ金切り声。あんまり響かせると頭痛がひどくなるとわかっていたから、ニナは比較的素直に、けれどしぶしぶと座り慣れたソファから腰を上げた。
「刺繍の方がまだ好きなんですけどね……」
最も、ピアノが大好きかと言われればそんなことはない。それより――少女はまた小さくため息をついて扉の外へと足を踏み出した。
毎週三回ずつ、ピアノと刺繍のおけいこごと。時々あるダンスは楽しいけれど、東洋の生け花には閉口してしまう。
「わびさびって、どうにもわからないんですよね……」
ピアノの教師にいつも通りに指導を受けて、手をくたくたにして部屋へ戻ると、ニナはまたソファにごろっと寝転がって、お気に入りの本を手に取った。
静かな、気だるい午後をそうしてやりすごし、夕食の時間には階下の広間に赴いて、給仕を受けつつ、一人だけの夕食の時間を過ごす。
父母は、と聞けば片や仕事、片や夜会に出向いているという。「そう」と無感動に応じたニナは、己のためだけに供された食事を静かに平らげた。
お風呂に入り、部屋へと戻る。のそのそとベッドにもぐりこんで、お気に入りのクマのぬいぐるみを抱いて、いつものように眠りにおちようと、努力し始めた。
でも、その日はいつも通りじゃないのだと、なんとなく気づいていた。
だからだろう。普段は気にもしなくなっている、ベッド脇の窓が気になって、身体を起こし、壁に相対し膝立ちになる。そうすると、窓からのぞく光景が目に入ってくるのだ。
眼下には厳重な門と壁に囲まれた、大きな庭。
暗闇に沈んでいる庭の向こうに広がるのは、雑駁な灯りに溢れた市街地。
平穏に囲まれた生活は、大変に穏やかで、ほどほどに退屈で――あまり自由ではないようで。
「でも、もっと、身体を動かしたいと思いません？」
こっそり計画を練って家出でもしてやろうかしら？
「――なんて、お転婆だと叱られてしまうのかしら。ねぇ、「私の中のどなたか」さん？」
窓ガラスに映る自姿に向けて、ニナはくすり、と笑ってみせた。
そっと窓に顔を近づけるニナ――ガラスに反射した鏡像の瞳の中に、いつものニナが、いた。
「おや、おかえりなさい」
いつのまにか扉の前に立っていたニナに対して、四十がらみの店主が笑う。
「――見たいものは、見れたかね？」
「うーん……まぁ、『もしも』を見てはみたけどいまいち実感がわかないというか」
ぽりぽりと後頭部をかいたニナは、促されるままにカウンターのスツールに腰を下ろす。
赤ん坊のころから境遇が違えば、育つ人間性も違うだろうし――そうであってのifの中で育ったとして、はたしてあれは『私』と言えるんだろうか、なんて思いが浮かんでしまう。
「私がこうして寝子島で育った以上、私の家族はやっぱり、渥美家の父と母ですしね」
そうでなければ今の仕事にも就かなかっただろうし。
そうひとりごちるニナに、店主がそっとハーブティーを差し出してくれる。カモミールの爽やかな香りが、夢見心地の気分を覚ますにはちょうどよい。――夢の世界に誘う香りでもあるのかもしれないが。
「でも、双子の……妹かぁ。……もしもそんな子が、本当に存在するとしたら、ちょっと会ってみたいかもしれませんねー」
なんて、ね。
くす、と笑って茶器を手に取るニナは、世界は不思議に満ちていますからねー、と軽い口調で呟いて、暖かなお茶に口づけるのだった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2017年01月08日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年01月15日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2017年01月15日 11時00分
