ねこ島温泉郷の五日間｜リアクション

ねこ島温泉郷の五日間

　脱衣所に突如として開いてたちまち大繁盛となった猫の半纏屋の主に愛猫たちの半纏の仕立てを頼み、八神修と椿美咲紀は自分たちも動き易い服装となる。
「皆、どの風呂に入りたい？」
「暖かくて天国だよ！」
　愛猫たちを連れて大浴場に乗り込む。湯舟に浸かる前に、猫たちの体を洗う大仕事が待っている。
「目を閉じててな」
　我も我もと寄って来る猫たちをなだめつつ、一匹ずつ正座の膝に乗せて洗う。湯桶にぬるめの湯を張り、薄めたシャンプー液を泡立てて猫の体を撫でるように洗う。
「顔の周りもわしゃわしゃするぞー」
　優しい言葉を掛けながらも、素早く優しく、かつ丁寧に猫を洗い上げて行く修の手腕に感心すると同時、美咲紀も膝に抱えた愛猫スノウを洗いにかかる。
「スノウも洗いましょうー」
　にゃあふぎゃー、悲鳴を上げる子猫を洗うのに四苦八苦する美咲紀の傍ら、数匹目の猫を洗おうとする修の背に待ちくたびれた猫たちが飛びついた。
「おいおい順番順番だ」
　主の言葉に抗議の鳴き声ひとつふたつ、猫たちは一斉に修の体に登り始める。
「わあ」

　猫まみれ、猫シャンプーまみれになって猫たちに床に押し倒されながらも、それでもなんだか楽しくなって、修は声を上げて笑った。
　くすくすと笑いながら、愛する猫たちを洗い上げ、湯舟に放つ。歓声を上げてあちらこちらの湯に向かう猫たちの背中を見送りつつ、多頭飼いの主は疲労困憊の態で寝湯の石床に仰向けに転がった。転がる主を見て、甘えん坊なミルクと忠実な性格のタイガとまだまだ子猫なテオテオが寄って来る。
　猫たちに仰向けの腹や胸に乗られながらも幸せ顔な修を見つめ、美咲紀は思わずくすりと笑う。
「どうした？」
「いえ、何にも」
　無防備な笑顔を見られたことについては口にせず、美咲紀はもう一度朗らかに笑う。
「勉強もせずににゃん達のお世話できるなんてパラダイスです！」
「猫達が寝たら勉強はするぞ」
「……へ？」
　数学と科学の参考書は持ってきている、と言う修に、美咲紀は目を丸くする。
「勉強道具を持ち歩くのは普通だよ」
「爽やかに怖いことを言わないでくださいっ」
「美咲紀の分も有るぞ」
　油断すれば予備の問題集までいそいそと出して来かねない修に、美咲紀はスノウを抱きしめ盾にして、ぷっとむくれてみせた。断固として宣言する。
「私は息抜きするのです」