【星幽塔】第八階層　妖精のオーブと２人の乙女｜リアクション

【星幽塔】第八階層　妖精のオーブと２人の乙女

●滝壺へ

「すまん、待たせた！」
　死闘を繰り広げるサキリ、圭花の元に、修、美咲紀、まほろが戻ってきた。圭花の顔が輝く。
「助かったわ！　２人じゃさすがに手に余るもの、このデカブツ」
「あわわ！　桃川さん怪我してるのです！　すぐに治療するのです！」
　体中に打ち身や擦り傷を負っている圭花を見て、美咲紀が慌てて花を取り出し、華麗に舞い始める。ろっこん＜舞花の祈り＞だ。ろっこんの力により、みるみるうちに圭花の傷が消えていった。
「ありがとう、椿さん！」
「いえいえ、なんのなのです！」
「―――で、仕掛けや滝壺の場所は分かったのかい？」
　ヒュン！　とサキリが皆の前に姿を現した。ふわっとまほろの表情が動く。彼女は赤いリボンのついたローブとお揃いの杖をサキリに向かって一振りする。杖の頭についた乳白色の玉から光が溢れ、癒しの光がサキリを包んだ。
「ああ、ありがとう遠野」
　治癒してもらったサキリが微笑む。まほろも微笑み返しながら言った。

「ううん……。サキリ君の動きが速くて、なかなか癒しの魔法がかけられなかったから……。かけられてよかった」
「あ……そうか、そうだよな。何だかすまない」
　初めて気が付いたようにサキリが頭を掻く。まほろがのんびりと笑った。
　そこにブン！　と巨人の腕がしなりながら落ちてきた。修やサキリは美咲紀やまほろをかばいながらよけ、圭花も華麗に飛び退る。立ち上がりながら修が言った。

「滝壺はこの山肌伝いに行った奥だ！　みんな頑張ろう！」

＊＊＊＊＊＊＊

（みんな、頑張って……！）
　滝壺の上空で桃白猫に乗りながら待っている夏朝は祈るような気持ちだった。

　それは、激しい戦いだった。
　圭花は風の力を込めた戦槌で少しでも巨人を崩そうと奮闘している。修は美咲紀と一緒に、風の魔法を纏わせた刀でやはり巨人を切り崩す。サキリの姿は速すぎて見えないが、赤い光が瞬く度、斬撃の音と共に巨人の体が崩れていくのが分かった。その少し離れたところでは懸命にまほろが杖を振るっている。まさに一丸の戦い。
　そして彼らは少しずつ移動していた。滝壺に向かって、確実に。

「もう少しだよ……頑張って！」
　たまらず夏朝が声を張り上げる。自分も桃白猫と共に高度を下げ、巨人の目の前を誘導するように飛び始めた。
　すると向こうの森の端からひょいと顔が出た。
「滝壺とやらはすぐこの先だよい～」
　森の中から先回りしていた瓢だ。もう１０ｍもない。修が夏朝に言った。
「夏朝は上空で待機してくれ！　美咲紀の魔法で声を届ける！」
「分かった！」
　夏朝は上空高く舞い上がる。ズシン、ズシンと動く巨人の頭が小さくなった。
　轟のいる仕掛けの上空に向かう夏朝。すると、耳元の風の音が確かに修の声を形作った。
「滝壺に入った！　恵御納、頼む！」
　その瞬間に夏朝は急降下しながら叫んだ。
「ザ・ストレイト、お願い！」

　轟は確かに恵御納の叫びを受け取った。
「よーし、まかせろ！」
　目の前にあるのは蔦が絡まり苔むした大きな石柱。そのそびえ立つ石柱には、もう何が彫られていたのかも分からないくらいに汚れたレリーフがあった。どうやら仕掛けというのはこれを押し込むらしい。轟はパンッと拳を合わせた。
（めちゃくちゃ力がいりそうだな、これは）
　轟の篭手に宿るは闘士の光。まさに今、この星の力を使う時だ。轟は持てる力の全てを使い、気合いを込めてレリーフを押し始めた。