【星幽塔】第八階層　妖精のオーブと２人の乙女｜リアクション

【星幽塔】第八階層　妖精のオーブと２人の乙女

●ハッキリしなさい！

　サキリは三角関係はこのままでもいいと思っていたが、桃川圭花はそうではなかった。
　誤解がないように言っておこう。別に圭花はどちらかに肩入れしている訳ではない。ただ、この関係の原因であろうエイロスが歯痒くてしかたなかったのである。
　森での戦闘が終わると、圭花は城へと乗り込んだ。
　圭花はエイロスの姿を探す。そしてようやくエイロスが騎士専用の馬小屋に行った事を突き止めた。

　エイロスはまさに馬に乗って出掛けようとしていた。
「ちょっと待って、エイロス」
　馬に鞍を着けていたエイロスに圭花は呼びかける。エイロスが振り向いた。
「君は……森に行ってくれた人だね。聞いたよ。ピレーを助けてくれてありがとう」
「これからどこに行くの？」
「え？　森に」
「……ピレーに会いに？」
「ああ。ピレーと会うには彼女が森の神域を出てくれないと難しいんだが……。もう手紙は使いたくないから、何とかするつもりだ」
「そういう問題じゃないでしょう！」
　ピシャリと圭花が言う。エイロスがびっくりして彼女を見た。圭花はエイロスの綺麗な青色の瞳を真正面から見据えた。
「あなた、２人の気持ちを考えた事あるの？」
　圭花は今戦槌が手元にない事を感謝した。城で歩き回るには邪魔だろうと、門番に預けていたのである。……あったらこの唐変木に一振りしていたかもしれない。
「これって私の個人的な考えだけど。あなたには責任があるわ。それは自分のことを好きな相手に対して、なんて理不尽なものじゃないけど……自分に対してよ」
「……自分に対して？」
　エイロスが返した言葉に圭花は頷いた。
「自分を好きになってくれた人の気持ちを尊く思えるなら、それに真剣に応える人間かどうかよ。あなたが自分に胸を張れる人間でいるかどうかは、あなたが決めるわ」
　エイロスはしばらく言葉を発せなかった。眉を寄せて真剣に考えていたが、くっとその端正な顔を上げた。
「なるほど……。確かに君の言う事は尤もだ。自分を好きになってくれた人の気持ちを尊く思い、真剣に応える事はとても大事だと思う」
「そうでしょう。なら……」
「大変勉強になった。今後の参考にさせてもらうよ」
（―――今後ですって？！）
　カッとした圭花は噛みつくように言った。
「今後じゃなくて、今するべきでしょう？！」
　しかしエイロスはきょとんとして言った。
「何で今なんだい？　私は誰かに好きになって貰った事は……ああ、父母には感謝している。そして、我が国王にも」
「……え？」
「ん？」
　２人は顔を見合わせる。そして圭花は涼やかに自分を見つめるエイロスを見て、ようやく気が付いたのだ。

　―――この人、そもそも自分が２人から恋されてる事に気が付いてない？

　カクン、と圭花の顎が外れた。
「ど、どうしたんだい？！」
　突然うな垂れた圭花に、さすがのエイロスも慌てる。圭花はしばらく脱力してたが、やがて力無くエイロスに手を挙げた。
「いえ……大丈夫よお構いなく」
「そうかい？」
　エイロスは心配そうだったが、心配ないと繰り返す圭花に「……つらかったら城の者に言うように」と言葉を残すと、馬に乗って行ってしまった。

　圭花は顔を上げ、その颯爽とした騎士の後ろ姿を見つめる。そして思うのだった。
（２人とも、ちょっと考え直した方がいいんじゃないの……）