【星幽塔】第八階層　妖精のオーブと２人の乙女｜リアクション

【星幽塔】第八階層　妖精のオーブと２人の乙女

●蹴散らせ！

　扉を開けると、そこは蜘蛛の海だった。
　ワサワサと茶色く蠢く子蜘蛛達。クレオはふうっと意識が遠のきかけ、アカリはヒュッと喉を鳴らすとぎゅうっとロベルトの腕を掴んだ。

　海斗は頬を掻きながら目の前の光景を見て、のんびりと呟いた。
「小さい蜘蛛でもえげつねえ見た目してっからなぁ。ここまでくるともうホラー映画みたいだべ」
　しかしその言葉とは裏腹に、ちっとも怖がっている風ではない。海斗は全く躊躇せずに子蜘蛛の大群に突っ込み、そのロングソードで斬りつけた。
（たいして大きくねぇな。これなら直接頭潰せばいいっちゃね）
　彼は頭でもう子蜘蛛をいかに効率よく倒していくか考えていた。

「掃除の時間や。行くで、アルス！」
　剛の声に、黒竜のアルスがそのしなやかな翼を大きく羽ばたかせた。ブワッとアルスを中心に風が舞い起こり、子蜘蛛が吹っ飛ばされる。そしてめげずにジャンプしてくる子蜘蛛に、剛は斧槍を華麗に振り、その長い軌跡で子蜘蛛達を斬りつけていく。見事な連係プレーだ。

（む、虫……！　しかもあんなにおっきいの……）
　海斗は大きくないと思ったかもしれないが、アカリは違った。子蜘蛛の茶色い足から生えている毛を見て、アカリは鳥肌を立てる。
「うー……みんなまとめてぶちのめしてやる……！」
　そう言うとアカリは、魔水の光が宿った杖を子蜘蛛に向ける。そこから勢いよく水が放たれ、まともに喰らった子蜘蛛達が次々に腹を見せた。

「おー、来島やるね！」
　そう言いながらロベルトは笑顔を見せた。可愛い後輩が頑張る姿は彼に力をくれる。ロベルトは魔火の光が宿る指輪を斜め前方に向けた。そこから出た緋色の炎が海斗に忍び寄る子蜘蛛をめらめらと焼き殺す。
「すまねぇ！　助かるっちゃ！」
　バイザーの中からくりんとした瞳を向け、海斗が言う。アカリとロベルトの魔法は防御にもなり、攻撃にもなる頼もしいものだった。

「さあーて、頑張ろうか」
　ペロリと唇を舐めてオルカが両手に剣を構えた。そう、双剣だ。盾を持たないそのスタイルは、軽やかに前に進んで行くオルカにふさわしい。剣士の光宿る双剣を振るえば、ザッとその両脇に腹を斬られた子蜘蛛がひっくり返った。
　その時、横から子蜘蛛がオルカに襲いかかった。オルカが気付くのが一瞬遅れる。だが、子蜘蛛がオルカに噛みつこうとした時、美しい歌声と共に半透明の障壁が出現した。ボタボタと飛び出した子蜘蛛がぶつかり落ちていく。オルカは嬉しそうに振り返った。
「悠月！」
　そこには竪琴の音と共に美しい聖歌を響かせる悠月が立っていた。ろっこん＜Holly Knight＞だ。ふっと歌をやめると、悠月は狩人の光宿る竪琴をしまい、弓を取り出した。その長い睫の下から軽くオルカを睨む。
「気を付けろよ。……お前は前ばっか見過ぎだ」
「りょうかいー」
　ウインクで答えるオルカ。呆れたように悠月はオルカを見たが、２人は軽く頷き合う。そして再びしなやかに子蜘蛛に向かって行った。

　３次元的に攻撃を行う者もいた。
　己のろっこんを発動し、刀はその姿を消した。いや、消えたのではない。余りに高速で人の目では捉えきれないのだ。
（地面は子蜘蛛がいて動きづらいからな）
　空気や壁を足場にして刀は動き回る。そして子蜘蛛の攻撃を避けながら、刀は見事にたくさんの敵を斬り捨てていった。

「蜘蛛対蜘蛛か。嫌われもん同士だから同情せんこともないが……許せ」
　そう言いながらまもるは魔火の光を宿した自身の蜘蛛糸を子蜘蛛めがけて発射した。その蜘蛛糸に巻かれた子蜘蛛達は身動きも出来ずに焼かれていく。子蜘蛛がジャンプしてくればまもるは蜘蛛糸を使ってパッと天井にへばりつく。華麗な炎のスパイダーマンは縦横無尽に攻撃をしていた。

「王様達の捕らえられている場所は２階だ！　行ってくれ！」
　天井からまもるが言う。
　救出部隊の亮、トワ、クレオはエイロスと共に頷くと、仲間が必死に戦って空けてくれた廊下を走り始めた。