花の名は。｜リアクション

花の名は。

プリンセス to リトルプリンセス

　彼らと別れた宮祀智瑜は、展覧会の続きをのんびりと眺めて歩いていた。

（上下左右、万里、八神……それに同じ名前の花もあって、すごく不思議なところだな……）

　目を閉じれば常に違う香りが智瑜を包み込み、開いたら開いたでいつも見たこともないような綺麗な花が出迎えてくれる。
　綺麗な花に囲まれて、ちょっぴりお姫様気分な智瑜は人通りが少ないタイミングを見計らって、花園のど真ん中でくるりと一回転してみた。
　ヌードカラーのパンプスが軽やかな音を立てると、春らしいシフォンの桃色ワンピースがふわりと柔らかく風に膨らんだ。髪のリボンも風に揺れる。
　一回転してピタリと足を揃えると、足首までのピンクベージュの靴下に付いているバックリボンも綺麗に並んだ。

（こんな素敵なところで、沢山の赤い薔薇の花束を好きな人から贈られたいな……。たどたどしくても、真剣な瞳で見つめられたら……きゃッ！）

　まなうらに浮かんだ甘い妄想に、智瑜の頬が桜色に染まっていく。

（想像したら、なんだか恥ずかしくなってきた……）

　火照った頬をパタパタと手で仰いで冷ましていると、一むらの桃色の花が目に留まった。
　小花のような花弁がいくつも集まって一つの花を形作っているその花の名前は、覚えのある名前だった。
　ハッとして花の説明を読んでみると花言葉は『頑張り屋』『沢山の幸せ』と書いてあった。
　智瑜は慌てて来た道を戻り、ルイマリの姿を探す。そしてその姿を見つけた瞬間。

「あの……っ！　あそこにあった花って購入できますか？　大切に育てますから……！」

　我を忘れて大声を上げてしまった。声をかけられたルイマリが目を白黒させているのを見て、ようやく智瑜は我に返る。

（わ、私ったら……）

　声が大きすぎたことも、性急すぎたことも恥ずかしくなり、智瑜は真っ赤になって身を縮めた。

「あの、その……ごめんなさい」

　尻すぼみになってしまう智瑜の謝罪を、ルイマリは心地よい微笑みで受け止めてくれた。

「可愛らしいお嬢さんだこと。もしかして、同じ名前の花なのかしら？」
「あ、い、いえ。私は違うんです。でも私の入院しているお友達と同じ名前で……」
「まあ、そうなの……」

　事情を説明するとルイマリは一も二もなく、快諾してくれた。その上、見た目に反して根がしっかりした品種で運ぶのが大変な品種だからと後ほど自宅まで届けてくれるという。
　智瑜は彼女の配慮に深く感謝しながら、ただでさえ大きな胸を期待でより大きく膨らませていた。

（病院には鉢植えの花は持って行けないから……うちの裏にある小さな花壇に植えよう。
　今度会える時までには咲いてるかな？　それとも枯れてるかな？　もし枯れてしまったら、種をあげて一緒に育ててみたいな……。
　そうだ、今度園芸ショップで陶器のくまさんを探してこよう！　それで花の隣に飾ってあげよう！　可愛いのを探さなくちゃな。えへ、次の日曜日の予定はこれで決まり！）

　想像すればするほど、智瑜の胸は幸せで満ちていく。幸せを噛み締めながら、智瑜は次の花を楽しむのだった。