堅い蕾のついた枯れ枝の間を、柔らかな光がすり抜ける。
楪 櫻の黒髪はしっとりと艶めき、春の訪れを予感させた。
櫻が長く生白い指で細く垂れた横髪を掻き上げると、ほのかに石鹸の香りが立った。
志波 武道は彼女の一挙一動に目を奪われ、頬をかすかに染める。
まだ青さが残るも春を思わせるふたりは、この日、寝子島高校理事長・
桜栄 あずさの住む桜栄邸を訪れていた。なにも生徒会だから学級委員だからという肩の凝るような話ではなく、この邸宅で現在開催している花の展覧会を見るためにやってきた。寝子島高校の生徒であれば誰しもあずさの気まぐれは知っている。生徒の中にはその気まぐれから援助を受けている者までいる。
そのあずさのノブレス・オブリージュというほど気負いのない投資は学外にも及び、時折邸宅の一部を若いアーティストやなんやといった人々に展示スペースとして貸し出すことがあった。
今回の展覧会もそういった類のもの。とても商売にはならないような繁殖の難しい花であったり珍品というには少し地味な花であったりが展示されている、趣味なのか道楽なのか芸術なのか素人目には判断の難しい催しであった。
けれど花は美しく、ただそこにある。彼らがここに訪れる理由はそれだけで十分だった。
「これ、サクラなんだよな」
武道は桜の木を見上げ、愛おしげに目を細めた。櫻が彼の言葉を肯定しようとしたそのとき、
「この子は、手弱女という品種なんです。私のお気に入りで蕾のものから満開のものまで十段階で用意いたしましたの。よろしければすべてご覧になっていってくださいね。うっとりしてしまうほど優雅な花を付けるんですよ」
と微笑む美しい女性が現れた。アッシュグレーの腰まで伸びた髪は柔らかく波打ち、色素の薄い瞳には長い睫毛の影が伸びる。シフォンのワンピースに劣らないほど白い肌と、唯一の色味である首に巻いたロイヤルブルーのスカーフとのコントラストが眩しい女性であった。
「ああ、でもそちらの凛としたお嬢様と重ねるのでしたら、手弱女よりも……」
彼女は花がほころぶような笑みを浮かべると、既に花の付いている別の枝を手折り櫻に差し出した。
「咲耶姫、こちらの方が似合うと思いますの」
櫻は訝しみながらも「……ありがとう」と幾枚もの花弁が重なった可憐な花を受け取った。
「まあ大変、ご挨拶が遅れましたね! わたくし、ルイマリと申します。この花の展覧会の案内人を務めております」
ルイマリはパチンと無邪気に手を合わせてから、打って変わって優雅な欧米式のお辞儀をしてみせる。
「どのようなお花がお好みです? あちらにはお花畑をイメージしたスペースもありますし……そうだわ! そちらの殿方のイメージにぴったりのお花があるの。その花の名は――」
武道と櫻はルイマリが指さした先にある花の、ネームプレートへ視線を向けた。
そこには――『武道』と記されていた。
ガイドに登場してくださいました、志波 武道様、楪 桜様ありがとうございます。
ご参加頂いた場合はガイドのシチュエーションに関係なく、自由に行動していただいて構いません。
お気軽にご参加ください。
【概要】
花の展覧会を訪れたあなたは【あなたと同じ名前の花】と出会いました。
どうやら一般には出回っていないような、ルイマリが品種改良して生み出した新種の花(架空の花)のようです。
ネームプレートに花の名前や由来、小話等が記載されていることで、あなたはその存在に気が付きます。
この展覧会では、季節や育つ土地柄も様々な花が入り混じっています。
あなたの名前の花はいったいどんな花でしょうか。
自分の花、他人の花、どれと言わずいろんな花を愛でるもよし、
好きな人の名前の花を購入するもよし、友だちや恋人とそれぞれの名前の花を交換するもよし。
好き好きに楽しんでください。
【NPC】
ルイマリ・アンティーク・安藤
この花の展覧会の案内人で、年齢不詳の美人。
花については博識だが、それ以外のことはまったくの無知。
おっとりとマイペースで掴みどころがない人。どうやら桜栄 あずさ理事長とは古い知り合いらしい。
彼女と理事長以外の名前付きNPCは登場しません。
【会場について】
桜栄邸のホールやお庭など。
入場料は無料です。お気軽にどうぞ。
お花のお代はそれぞれですが、自分の名前の花だと伝えればルイマリは無料同然で譲ってくれます。
この日は一日中暖かく、過ごしやすいようです。
【アクション上に記載してほしいこと】
花の名前
あなたと同じ名前といっても色々あります。
ニックネームが同じだったり、意味が同じだったり、漢字だけが同じで読みは違ったり。
なので名前も必ずご記載ください。記載のない場合は、基本的には名前を使用します。
ガイドにご登場くださった楪 桜様のように、お名前が実際にある植物の場合は、架空ではなく実在の植物を題材にしても構いません。
勿論新たなお花を作っていただいても構いません。
色・形・品種など見た目に関すること
例:バラ科の花で、青色、花びらの形がハートみたいになっている。花瓶に生けてある。
蝶々の翅みたいな模様で形。ステンドグラスみたい。庭で風に揺られている等)
花言葉、花物語、花の別名など花のイメージ・背景に関すること
例:花言葉『女神の微笑み』 兄妹を亡くして泣いていた女神様が、この花を見て笑顔を取り戻したという逸話がある。
花言葉『嘘』、別名『詐欺花』)
【アクションの書き方に関するお願い】
!『キャラクター自身の言葉』で『行動』を書いてください。
実際に口に出す言葉は「」で囲んでください。
それ以外は基本的には心の中で思っていることと判断します。
心理状態は口調から汲み取ってシナリオ上で膨らませていくことが多いです。
!アイテムの活用を推奨しております。
思い出の品、飼っているペット、いつも身に付けている小物等の
アイテム化を推奨しております。
アクションのそれらのものが登場する際は、
アイテム『名前orアイテムNO.』を記載していただけると助かります。
つるこ。が執筆する場合に限りますが、できる限り参照させていただきます。